言えない。言わない。

少し風のある午後だった。


空は高くて、雲がゆっくり流れている。

砂場の縁に積もった細かい砂が、風にさらさらと動く。


三人で公園に来ている。


小さなすべり台と、色のはげたブランコ。

鎖が揺れるたび、きい、と小さく鳴る。


月乃はブランコに座っていた。足を前に出し、地面を蹴る。

後ろから雫が、ゆっくり押す。


雫「どう?高い?」


月乃「もうちょっと大丈夫〜」


風が頬をなでる。髪がふわりと浮く。

少し離れたところで、玲央はボールをついていた。


ぽん。

ぽん。


一定の音。

そのとき。

同じくらいの男の子が近づいてきた。


男の子「いっしょに遊ばない?」


ブランコがゆっくり止まる。

雫の手も止まった。

月乃は振り向いて、その子を見る。

少しだけ考えてから、うなずく。


月乃「……うん、いいよ」


男の子は嬉しそうに笑った。

月乃と雫もつられて、少し笑った。

その瞬間。

ぽん、が強くなる。

ぽん。

ぽん。

音がさっきより硬い。

玲央はボールを抱えて歩いてくる。

足取りが少し早い。


玲央「つきの!!」


月乃が振り向く。


月乃「なに?」

玲央「こっち来い」


少しだけ早口。

男の子が首をかしげる。


男の子「だれ?」


玲央は何も言わなかった。


玲央「……となり」


月乃はブランコの鎖を握ったまま、少し迷う。

でも、すっと降りた。

雫は何も言わず、三人のあいだを見ていた。

砂場のほうへ歩いていった。

男の子は少し立ち止まってから、すべり台のほうへ走っていった。

砂場の縁に座った。

風が少し強くなる。


月乃「れお、どうしたの?」


本当にわからない顔。

玲央は砂を足で崩す。


玲央「べつに……」


月乃「急にどうしたの?」


玲央「急じゃない」



雫「れお、さっきちょっと怖かったよ」


玲央「怖くないし」


月乃はきょとんとする。


月乃「いっしょにあそぼう?って言われただけだよ?」


悪気はまったくない。


玲央「……」


砂を強めに蹴る。

ぽす、と乾いた音。



雫「れお、さみしかったの?」


玲央「ちがうって」



月乃は少し考えてから、ふっと笑う。


月乃「じゃあ、4人であそぶ??」


本気でそう思ってる顔。


玲央「やだ」


月乃「なんで?」


玲央「なんでも」


少しだけ口を尖らせていた。

雫が、くすっと笑った。


雫「わかった。3人ね」



月乃「別に一緒でも良くない??」


玲央「……よくない」


怒ってはいない。ただ、譲らないだけ。

雫が月乃の手を取った。


雫「今日は3人で遊ぼ!」


月乃「……わかった」


月乃「じゃあ、山作ろ!
れおがいちばん高いの作って!」


玲央「まかせろ」


機嫌が戻っていた。

雫が、月乃には聞こえないくらいの小さな声で


雫「単純」


玲央「うるさい」


月乃「えー、なに〜?」


玲央「なんでもねーよ」


3人で夢中で山を作り出した。

笑い声が混ざる。

さっきの男の子のことは、もう話題に出ない。

でも。

笑っているのに、胸の奥が少しだけ落ち着かなかった。