言えない。言わない。

秋の空は高かった。

風は涼しくなってきたのに、陽の光はまだやわらかくあたたかい。

天音家の庭に、小さなテーブルが出ていた。

白い箱がひとつ、その上に置いてある。

月乃はそれを、じっと見ていた。


月乃「……これ、なに?」


雫がにこっと笑う。


雫「なにって、今日なんの日?」


月乃は少し考えて、ぱっと顔を上げた。


月乃「……あ。」


玲央「忘れてたのかよ」


月乃「わ、忘れてないし!」


ほんの少しだけ声が上ずる。

今日は、10月6日。

月乃の誕生日だった。

雫が箱を両手で押す。


雫「開けてみて」


月乃はそっとリボンをほどいた。

中には、小さな水色のヘアピンと、星の形のキーホルダー。

月乃の目がゆっくり丸くなる。


月乃「……かわいい」


玲央「雫が選んだ」


雫「れおも一緒に選んだよ」


玲央「……まあな」


月乃はふたりを交互に見る。



月乃「……でも」


雫「ん?」


月乃「雫のとき、ちゃんとお祝いしてない」


声が、ほんの少しだけ小さくなった。

雫の誕生日は6月18日。

その日は大雨で、三人で遊べなかった。

ケーキも、渡せなかった。

雫は少し首をかしげる。


雫「別にいいよ?」


月乃「よくないもん」


月乃「ちゃんと、やりたかった」


その顔は、真剣だった。

玲央が少しだけ笑った。


玲央「じゃあ、今からやれば?」


月乃「え?」


玲央「今から雫の誕生日もやる」


雫「え、なにそれ」


月乃の目がきらっとする。

月乃「やる!」


すぐに立ち上がって

庭の隅に走っていき、どこからか小さな花を摘んでくる。


月乃「はい、しずく!」


雫は一瞬きょとんとして、それから笑った。


雫「ありがとう」


玲央は砂をいじりながら言う。


玲央「ほら、これでチャラ」


月乃「チャラじゃない」


でも、笑っている。

雫がヘアピンを月乃の髪につけてあげて


雫「ほら、似合ってる」


月乃「……ありがと」


玲央はそれを見て、ふっと目を細めた。

三人で並んで座る。

秋の空が、ゆっくり流れていく。

月乃は星のキーホルダーをぎゅっと握る。


月乃「ねえ」


玲央「なに」


月乃「また、いっしょにお祝いしようね」


雫「うん」


玲央「当たり前だろ」


月乃は笑った。

その笑顔は、発表会のときよりも、少しだけ子どもで。

でも、どこか安心していた。

三人の影が、庭に並ぶ。

まだ、きれいな三角形のまま。