言えない。言わない。

しばらくして、ロビーで三人は合流した。

人の流れの中で見つけた顔に
月乃は息をついた。


月乃「……どうだった?」


問いかける声は、さっきまでより軽い。

それを受けて
玲央はわざと間を置いてから答えた。


玲央「普通」


一瞬で、月乃の視線が鋭くなる。


月乃「普通ってなに!」


すぐに顔をしかめて
玲央は笑いながら手を振る。


玲央「うそうそ、うまかった」


その言葉に、月乃は小さく息を抜く。

肩に残っていた力が
ゆっくりとほどけていく。


月乃「……最初、ちょっとだけ間違えた」


雫「え、気づかなかった」


玲央「俺も」


ふたりの返事を聞いて、月乃は視線を下げる。

それから、思い出したみたいに小さく笑う。


月乃「……はぁ〜、緊張した〜」


雫はその様子を見て、やわらかくうなずく。


雫「ちゃんと聞いてたよ」


その一言に
月乃は少し間を置いてから続けた。


月乃「……探した」


玲央「なにを?」


月乃は視線を上げて、まっすぐ言う。


月乃「ふたりを」


一瞬だけ、空気が止まる。


月乃「……いたから、大丈夫だった」


その言葉に、玲央は目を逸らして短く返す。


玲央「当たり前だろ」


玲央「俺らがいたからな」


強がるみたいな言い方に
月乃はすぐに眉を寄せる。


月乃「うるさい〜」


そう言いながらも、笑っている。

そのまま一歩前に出て、振り返らずに言った。


月乃「そういうの、自分で言わないんだよ〜」


その背中は、さっきより少し大きく見えた。

人の流れの中に混ざりながら
三人の距離は変わらないまま。

見えない場所でも
“いる”ことだけは続いていた。