言えない。言わない。

夏に近づく午後だった。


蝉はまだ鳴いていないのに、空気だけが少し重い。

小さな庭に、三人の影が並んでいる。

土は乾ききらず、ところどころ色が濃い。


玲央「おれ、かくれる」


月乃「じゃあ、わたし、さがすね」


雫「わたしも」



玲央は庭の奥へ走っていき

物置の影に身を滑り込ませ

植木の向こうへ体を寄せる。

息をひそめるのが少し楽しい。

見つからない自信も、少しあった。


月乃と雫は手を繋いで、目を閉じた。


月乃・雫「いーち、にーい、さーん……」

ゆっくり、丁寧に。


月乃・雫「……じゅう」


目を開ける。


庭は静かだった。


月乃「れお?」


返事はない。


月乃はまず植木の裏をのぞいた。

次に物置の横へ回り、しゃがんで、土の上を確かめる。

いない。


雫は少し離れた場所から見ていた。

物置の影に、スニーカーの先がほんの少しだけのぞいていた。


月乃は門のほうへ歩いていき、外の道をのぞき込む。


月乃「れおー」


さっきより、少し大きい声。


返事はなかった。


月乃の足が止まる。


月乃「……れお?」


雫は、月乃の指先が

無意識にぎゅっと握られているのに気づいた。


月乃「いない」


月乃の目の奥が、ほんの少し潤んでいる。


雫「れお、あついよ〜」



雫「でてきたら、つぎ、わたしがかくれるから〜」



しばらくして、物置の影がわずかに動き、玲央が顔を出した。


玲央「まだだろ〜」


言いながらも、目は月乃を探している。


月乃が振り向いて、


月乃「れお」


目が潤んでいた。


月乃「いなくならないでよ……」



玲央は戸惑いながら


玲央「かくれんぼだし」


言いながら、胸の奥がざわつく。


うまく言えなかった。



雫「つぎ、わたし、かくれるね。」


玲央はうなずく。


月乃は目元をこすり、息を整える。


月乃「……ちゃんと、いて」


その言葉に、玲央の喉がつまる。


いなくなったわけじゃない。ただ隠れていただけ。


それなのに。


月乃の中では、少し違ったみたいだった。


夕方になるころ、三人は並んで庭に座っていた。

空の色がゆっくり変わっていく。


月乃は空を見ていた。


玲央は、その日はもう遠くへ隠れなかった。


雫はその様子を、何も言わずに見ている。


隠れることが嫌なのではない。


いなくなる感じが、怖いのだと。


そのことを、玲央もほんの少しだけ感じていた。