言えない。言わない。

夜は、少し静かすぎる。


黒瀬家と天音家の二階の窓は、同じ高さに並んでいる。

灯りがつくと、影の位置もほとんど同じ。


月乃は机の上のカメラを閉じ、窓を少しだけ開ける。

コン、とガラスを叩く軽い音。


ドキっ。


向かい側の窓がゆっくり開いた。


玲央「まだ起きてたの?」


月乃「うん。玲央は?」


玲央「もう少し」


玲央「今日、空見た?」


月乃「見たよ」


玲央「どうだった?」


月乃「ちょっと強かった」


玲央「強いって?」


月乃「ちゃんと、そこにある感じ」


玲央も見上げながら


玲央「最近、それわかるようになってきた」


その声に、思わず微笑んだ。

昔は、空の色なんて気にしなかったくせに。


玲央「なに考えてんの?」


月乃「べつに」


ほんとは、別にじゃない。

ずっと考えている。

言えないことのこと。

言わないまま、ここまで来たこと。


玲央「なあ」


月乃「なに?」


玲央「……俺たちってさ」


言いかけて、止まる。


玲央「なんでもない」


その続きを、聞かない。

聞いたら、終わる気がする。

好き、と言えば簡単なのかもしれない。

でも言わない。

言った瞬間、いまの距離が壊れそうで。

変わらないままで、隣にいたい。


玲央「今日の空、好き?」


月乃「うん」


玲央「俺も」


少しだけ鼓動がうるさくなるのを感じた_____


月乃「今日、撮った写真、あとで見る?」


玲央「見たい」


触れられない距離。

でも遠くない。


月乃「おやすみ」


玲央「おやすみ」


窓を閉める。

カーテン越しに、向こうの灯りがまだ見える。

消えない。

見えなくなっても、そこにある。

ずっと隣にいる。


それは安心で

同時にいちばん怖い。