『パシャ』
空を見上げたまま、カメラを下ろす。
いつもの時間。
黒瀬家と天音家の二階の窓は
同じ高さに並んでいる。
灯りがつくと、影の位置もほとんど同じで
カーテン越しでも誰がいるのか
なんとなく分かる。
ふと向かい側のカーテンが揺れて
窓がゆっくり開いた。
玲央「まだ起きてた?」
月乃「うん」
少しだけ身を乗り出すと
同じ高さの視線が合い
いつもの距離がそのままそこにある。
玲央「何してんの?」
月乃「空撮ってたの」
玲央「本当、好きだな」
月乃「好きだよ。毎日違うから」
玲央は一度空を見上げてから
興味なさそうに息を抜く。
玲央「ふーん」
その横顔を見て、月乃はカメラを持ち直すと
何でもないみたいにシャッターを切った。
パシャ。
玲央「おい、撮るなよ」
月乃「いいでしょー?」
玲央「なんで撮んだよ」
月乃はレンズを下ろした。
月乃「大事なもの残そうと思って」
玲央が言葉を探すように
少しだけ視線を止める。
玲央「……どういう…」
月乃は空を見たまま、少しだけ笑う。
月乃「消えないように…ね」
月乃「……私の特権」
その言い方に
玲央は困ったみたいに小さく笑って
何も言い返さないまま視線を逸らした。
玲央「なあ」
月乃「なに?」
少しだけ間が空いて
玲央は窓枠に腕を乗せる。
玲央「……俺たちってさ」
言いかけて、止まった。
月乃は、その続きを聞かない。
ずっと考えている。
言えないことのこと。
言わないまま、ここまで来たこと。
聞いたら、終わる気がする。
好き、と言えば簡単なのかもしれない。
でも言わない。
言った瞬間、いまの距離が壊れそうで
変わらないままで隣にいたいと思ってしまう。
玲央「…なんでもない」
月乃は小さくうなずいて
それ以上は何も言わないまま顔を上げる。
そのまま何事もなかったみたいに
いつもの距離に戻っていく。
玲央「早く寝ろよ、遅刻すんぞ?」
月乃「大丈夫〜」
玲央「嘘つくな」
軽く返しながらも
玲央は窓枠に指をかけたまま動かない。
月乃「大丈夫だよ。
玲央が起こしてくれるもん」
玲央「それ、大丈夫って言わねーぞ」
二人とも少しだけ笑って
そのまま同じ方向を見上げる。
言葉がなくても成立する時間が
当たり前みたいに流れていく。
月乃「じゃ、また明日」
玲央「……おう」
一拍だけ残して、月乃は息をつく。
月乃「おやすみ」
玲央「おやすみ」
窓もカーテンも開けたまま
灯りを消してベッドに入った。
隣にいるのは当たり前のはずなのに。
名前の無い関係。
空を見上げたまま、カメラを下ろす。
いつもの時間。
黒瀬家と天音家の二階の窓は
同じ高さに並んでいる。
灯りがつくと、影の位置もほとんど同じで
カーテン越しでも誰がいるのか
なんとなく分かる。
ふと向かい側のカーテンが揺れて
窓がゆっくり開いた。
玲央「まだ起きてた?」
月乃「うん」
少しだけ身を乗り出すと
同じ高さの視線が合い
いつもの距離がそのままそこにある。
玲央「何してんの?」
月乃「空撮ってたの」
玲央「本当、好きだな」
月乃「好きだよ。毎日違うから」
玲央は一度空を見上げてから
興味なさそうに息を抜く。
玲央「ふーん」
その横顔を見て、月乃はカメラを持ち直すと
何でもないみたいにシャッターを切った。
パシャ。
玲央「おい、撮るなよ」
月乃「いいでしょー?」
玲央「なんで撮んだよ」
月乃はレンズを下ろした。
月乃「大事なもの残そうと思って」
玲央が言葉を探すように
少しだけ視線を止める。
玲央「……どういう…」
月乃は空を見たまま、少しだけ笑う。
月乃「消えないように…ね」
月乃「……私の特権」
その言い方に
玲央は困ったみたいに小さく笑って
何も言い返さないまま視線を逸らした。
玲央「なあ」
月乃「なに?」
少しだけ間が空いて
玲央は窓枠に腕を乗せる。
玲央「……俺たちってさ」
言いかけて、止まった。
月乃は、その続きを聞かない。
ずっと考えている。
言えないことのこと。
言わないまま、ここまで来たこと。
聞いたら、終わる気がする。
好き、と言えば簡単なのかもしれない。
でも言わない。
言った瞬間、いまの距離が壊れそうで
変わらないままで隣にいたいと思ってしまう。
玲央「…なんでもない」
月乃は小さくうなずいて
それ以上は何も言わないまま顔を上げる。
そのまま何事もなかったみたいに
いつもの距離に戻っていく。
玲央「早く寝ろよ、遅刻すんぞ?」
月乃「大丈夫〜」
玲央「嘘つくな」
軽く返しながらも
玲央は窓枠に指をかけたまま動かない。
月乃「大丈夫だよ。
玲央が起こしてくれるもん」
玲央「それ、大丈夫って言わねーぞ」
二人とも少しだけ笑って
そのまま同じ方向を見上げる。
言葉がなくても成立する時間が
当たり前みたいに流れていく。
月乃「じゃ、また明日」
玲央「……おう」
一拍だけ残して、月乃は息をつく。
月乃「おやすみ」
玲央「おやすみ」
窓もカーテンも開けたまま
灯りを消してベッドに入った。
隣にいるのは当たり前のはずなのに。
名前の無い関係。
