【完結】見返りは、当然求めますわ

 side王太子


 母上は、「婚約者としてふさわしい令嬢を探さないと」と、連日さまざまな家の令嬢たちと面会を重ねている。この国の未来と私の将来を見据える気迫が感じられ、怖いくらいだ。


 アンナはそんな母上に、「王太子妃教育なんて余裕です。その面会が無駄だということを証明して見せますわ」と自信に満ちた態度で宣言していた。


 最初こそ威勢よく振る舞っていた彼女も、数日もしないうちに音を上げ、今では隙を見つけては私の部屋にこっそり逃げ込んでくる始末だ。私には、ばれていないと思っているらしい。


 私も、アンナに王太子妃教育を受けさせないといった手前、強くは言えない。だが、現状を考えると彼女にはもう少し頑張ってもらわないと、私たちの未来が危ういのに。

 廃嫡の話が具体的に出てきてはいないものの、いつその話が現実になるか分からない。危機感が常に私の胸を締め付けている。が、アンナにはその緊張感がまだ伝わっていないように見える……。


 それにしても、あの2人が、こうなることを知らなかったはずはない。


 騙されたのか? 祝福してくれたのに……なんで?


 裏切りを疑うことすら、考えもしなかった。私たちはこれまで、互いを信じ、この国の未来を共に築くために努力してきたのだから。


 どんなに苦しい時でも、彼女らは手を差し伸べてくれた。それがどれほど私にとっての支えになったか、知っているはずだ。だからこそ、今のこの状況が信じられない。





 ふと、ソファに座ってお菓子をつまんでいたアンナが、思い出したかのように話し始めた。


「あっ、そうだ。クリストファー様、実は王妃殿下が、私にお茶会を任せてくれると言ったの」


「お茶会? すごいじゃないか!」



 私は驚きと共に喜びを感じた。王妃様がアンナに大事な役目を任せてくださったということは、彼女が成長している証にちがいない。私の知らないところで、アンナが頑張っていたであろうことに少し安堵した。



「ふふ、成功したら私のことを認めてくださるって!」


 アンナの瞳が輝いていた。彼女にとって、このお茶会の成功が認めてもらう大きなステップになるだろう。でも、心配だ……。


「アンナは、一人で大丈夫か? あの二人だって、今まで手分けしてやっていたのに。そうだ! 私が手伝うよ」



「いいの、大丈夫よ! 王妃様は、最初だから規模の小さいものにしてくださるって言っていたもの。それに、あのお二人が置いていってくださった式次第や進行表に、私らしさを入れればいいだけだって。『あとは、あなたのセンス次第よ、任せるわ』っておっしゃっていたのだもの。手伝ってもらったってばれたら、叱られる。だから、クリストファー様、楽しみにしていて!」


 式次第や進行表があるなら、大きな問題はないかな? このチャンスをしっかり掴んで、見事にやり遂げる未来のアンナを想像すると笑みが浮かぶ。



 よし、彼女の成功を信じて応援しよう。




 *********

 ーお茶会当日ー





 お茶会の日、会場には異様なほど冷え切った空気が漂っていた。賑わいを期待していた私は、その重苦しさに背筋が凍る思いだった。



 会場に入った瞬間、違和感を覚えた。豪華さだけを追求した飾りつけは、どこか落ち着かず、目に入るすべてがバラバラだった。


 テーブルクロスは鮮やかな赤、それに合わせられた花々は紫や黄色といった派手な色彩で、調和など一切考慮されていない。まるで色の洪水が押し寄せてくるかのようだった。控えめな気品が求められる王家の格式あるお茶会としては、目を覆いたくなるような光景だった。


 招待された夫人たちは会場に入るなり、互いに小さく囁き合い、控えめに微笑みながらも、その視線は好奇の色を隠していなかった。



 装飾やテーブルセッティング、さらには用意された料理やティーセットに至るまで、どれも豪華すぎて浮ついており、そこには王家にふさわしい気品や優雅さが欠けていた。それぞれが主張しすぎている。


 夫人たちは、アンナの自己流のセンスに圧倒されたのか、終始ぎこちなく振る舞い、食事にもほとんど手をつけていない。特に目を引いたのは、ティーカップだ。装飾過剰なカップであり、王家に相応しい上品なデザインではない。確かに存在感があり単体で見ると芸術品のようだが、この場には相応しくない。


 どこかしら緊張感が漂い、会話も続かず、重苦しい沈黙が場を支配していた。


 食卓の上に並べられた料理も、お金がかかっていることは明らかだったが、それもかえって逆効果だった。美しく見せようとしているのがあまりにも露骨で、食べる気すら失わせる。


 アンナには、失笑が聞こえないのか?


 表情は変わらず、ただ自信満々の顔で立っている。彼女は、自分の用意したものが王妃殿下や母上、夫人たちに受け入れられると思い込んでいるのだろうか。



 一方、王妃殿下や母上の顔は冷徹そのもので、目には軽蔑と失望が浮かんでいた。何も言わずとも、その表情がすべてを物語っていた。


 これほどの失敗を見せつけられた私も、どうすることもできず、ただ立ち尽くすしかなかった。