ふたつの弧が重なるとき ~交わらなかったふたりの、遅すぎる初恋がはじまるまで~

「……ん? なになに、君たち知り合い?」
正人の間の抜けた声が、止まっていた時間を強引に動かした。
居酒屋の喧騒が、ダムが決壊したように再び耳に押し寄せてくる。
僕は現実に引き戻され、自分の心臓が早鐘を打っていることに気づいた。
「あ、えっと……。中学の、同級生で」
喉が張り付いて、うまく声が出ない。
僕は震えそうになる指先を隠すように、彼女の正面の席に座った。
「ええっ、マジか! 地元、福島だったよな? すげえ偶然! こんなことあるんだなー!」
正人が大げさに驚き、周りの部員たちも「運命じゃん!」とはやし立てる。
誰よりも驚いているのは、僕自身だ。
まだ足元がフワフワとして、夢の中にいるような感覚が抜けない。

「……久しぶり」
「……うん。久しぶり、瀬川くん」

彼女の声は、記憶の中の音よりも少しだけ大人びていて、けれど芯の部分にある温かさは変わっていなかった。
「まさか、同じ大学で、同じサークルで会うなんてね」
彼女がはにかむように微笑む。
知らぬ間に運ばれてきていたテーブルの上のジョッキには、無数の水滴がついている。
地元福島から遠く離れた東京のこの場所で、僕たちはこうして向かい合っている。
高嶺の花だった彼女と、それを遠くから見つめる僕。
彼女を知ってから、六年の月日を経たのに、僕は相変わらず彼女を直視できないまま、ぎこちなく自分のグラスを持ち上げた。