第1部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

後日談④

5日後

「セナ副団長を、6人がかりで倒した」

そんな噂が、第3騎士団の中を静かに巡っていた。

事実だけを切り取れば、そう聞こえてしまうのも無理はない。

・副団長
・歴戦の騎士
・魔宝剣使い

それを――
新人を含む複数人で包囲し、打ち破った。

英雄譚のようにも、異常事態のようにも受け取れる話だった。

だが、当の本人は何も語らなかった。

勝敗の理由も、彼女の関与も、
誰が何を企てたのかも。

ただ一言。

「……訓練不足だった」

それだけを残し、いつも通り訓練場に立った。

だが、その日を境に。

第3騎士団の訓練は、明らかに変わった。

⸻

剣の打ち込みは、以前より重くなった。

模擬戦の回数は増え、
判断を誤れば即座に叱責が飛ぶ。

「遅い」

「甘い」

「1人で戦うな」

その言葉が、何度も響いた。

特に――
セナ自身に課される訓練は、容赦がなかった。

単独行動での索敵。
不利状況からの立て直し。
魔力制限下での戦闘。

そして、しばらくして始まったのが――

反逆作戦訓練。

1人を対象とし、
複数人で奇襲をかける実戦想定。

背後からの急襲。
視界外からの魔法。
味方を装った接近。

正面からの戦闘は、存在しない。

「想定は、“信じていた相手が敵に回った場合”」

そう説明したのは、セナ本人だった。

「騎士が守るのは王国だ。
 だが、王国は常に正しいとは限らない」

誰も口を挟めなかった。

訓練場では、1人の騎士が中央に立ち、
周囲を取り囲む数人が合図もなく動き出す。

最初に倒れるのは、油断した者だ。

次に崩れるのは、連携の甘い者。

勝敗よりも重視されたのは、

“生き残れるか”

それだけだった。

騎士たちは、次第に理解していく。

あの日――
セナが敗れたのは、弱さではない。

「1人で背負いすぎた」ことだったのだと。

そして彼は、それを二度と繰り返させないために、
自らを犠牲にする訓練を選んだ。

第3騎士団の中で、いつしか噂は変わった。

「6人がかりで倒した」ではない。

「6人がかりでなければ、止められなかった」

そう語られるようになった頃。

セナは今日も、誰よりも早く訓練場に立ち、
誰よりも最後まで剣を握っていた。

それは罰ではなく、誇りだった。

彼女と共に戦うと決めた騎士としての。