僅かな距離

「月島?」

もう一度呼ばれる。

陽依は慌てて立ち上がった。

「……はい。」

声が震える。

月城の眉が僅かに寄る。

その変化に気づいてしまう。

気づかないでほしかった。

心配しないでほしかった。

なのに。

ほんの少しだけ安心している自分もいた。

そんな自分が嫌だった。

陽依はプリントを抱えたまま席を立つ。

教室を出る。
廊下へ出る。

前を歩く月城の背中が見える。
いつもなら何でもない距離。

それなのに。
今の陽依には遠く感じた。

近づいてはいけない気がした。

頼ってはいけない気がした。

けれど。

助けてほしい気持ちは消えてくれなかった。

胸の奥でずっと苦しそうに息をしていた。

そして陽依はまだ知らない。

この時の月城が。

ただプリントを運ばせたかったわけではなく。

明らかに様子がおかしい陽依と、少しでも話す機会を作ろうとしていたことを。