僅かな距離

放課後の廊下は、昼間よりずっと広く感じた。
靴箱へ向かう途中、後ろから足音が近づく。

――嫌な予感。

「ねえ、月島」

呼び止められて、陽依は足を止めた。
振り返ると、同じクラスの女子が三人。
笑っている。
でも、目は笑っていない。

「ちょっと来て」

返事をする前に、腕を軽く引かれる。
力は強くない。
でも、拒否できない程度。

連れて行かれたのは、
使われていない準備室の前。

扉が閉まる音が、
やけに大きく響いた。

「さっきさ」
「なんでああいうこと言うの?」

心当たりは、
多すぎて分からない。

「……ごめん」

反射的に、そう言った。
それが、間違いだった。

「ほら、またそれ」
「被害者ぶるのやめて」

誰かが鼻で笑う。

「別にさ、いじめてるわけじゃないんだけど」

そう前置きしてから、
一番近くにいた子が言った。

「正直、空気悪いんだよね」

胸が、きゅっと縮む。

「みんな我慢してるの、分かる?」
「だからさ、ちょっと距離取ってくれない?」

距離は、
もう十分すぎるほど取っている。
でも、それは言えない。

「無理に話しかけないで」
「こっち見ないで」
「関わらないでほしいだけ」

一つ一つは、静かな声。
怒鳴られない。
叩かれない。

だからこそ、逃げ場がない。

「分かった?」

確認するみたいに、問いかけられる。
陽依は、小さくうなずいた。

それを見て、彼女たちは満足そうに笑う。

「じゃ、よろしく」

扉が開いて、足音が遠ざかる。