僅かな距離

月城は窓の向こうで仕事をしている。

こちらには気づいていない。

気づくはずもない。

陽依がここに立っていることも。

今にも泣き出しそうなことも。

何も知らない。

それでいい。
そう思わなければいけなかった。

陽依は唇を噛み締めた。

そしてゆっくりと視線を逸らす。

これ以上見ていたら、本当に職員室へ行ってしまいそうだったから。

帰ろう。

そう自分に言い聞かせる。

先生には関わらない。

頼らない。

期待しない。

もう決めたことだから。

陽依は再び歩き出した。

一歩。
また一歩。
校門へ向かって。
けれど。

夕闇の中で遠ざかっていく職員室の灯りは、なぜかいつまでも視界の端に残り続けていた。

まるで。

「本当にそれでいいのか」

そう問いかけているみたいに。