僅かな距離

「これ先生に送っちゃおうかな。」

陽依の呼吸が止まる。

「やめて……」

「何で?」

女子は首を傾げる。

「好きじゃないんでしょ?」

「じゃあ困らないよね。」

その瞬間だった。

陽依の中で何かが切れた。

張り詰めていた糸が。

ずっと耐えていた心が。

限界を迎えた。

「もうやめてよ……!」

声が響く。

階段の踊り場に。

陽依自身も驚くほど大きな声だった。

女子たちが目を見開く。

陽依の肩は震えていた。

涙が次々と溢れてくる。

止まらない。

「何でそんなことするの……」

苦しかった。
悔しかった。
怖かった。

全部が一気に溢れ出していた。

「私が何したの……」

声が掠れる。
涙で視界が滲む。

「もう嫌だよ……」

誰にも聞かせるつもりのなかった本音が零れていく。

女子たちはさっきまでの笑顔を消していた。

予想していなかったのだ。

陽依がここまで追い詰められているなんて。

ここまで壊れそうになっているなんて。

陽依は息を荒くしながら立っていた。
もう周りなんて見えていなかった。

涙だけが止まらない。
その時だった。

階段の下から。
誰かが駆け上がってくる音が聞こえた。

勢いよく。迷いなく。
まっすぐこちらへ向かってくる足音だった。