僅かな距離

声が出ない。

言葉が出てこない。

胸が苦しくて。

ただ立っているだけで精一杯だった。

「ねぇ。」

別の女子が一枚の写真を拾い上げる。

そこには階段で向かい合って話している陽依と月城が写っていた。

陽依の瞳が揺れる。
あの日の写真だった。

『俺のこと頼ってよ。』

そう言われた日。
忘れたくても忘れられない日。
女子はその写真をひらひら揺らしながら笑った。

「先生優しいもんね。」

「勘違いしちゃうよね。」

周りからまた笑い声が上がる。

陽依は拳を握った。
爪が掌に食い込む。
痛い。
でも、それ以上に胸の方が痛かった。