僅かな距離

本当は違った。
眠れない日もあった。

朝が来るのが怖い日もあった。

でも、

『助けてください』

その一言が言えなかった。

言ったところで、
もっとひどくなる気がしたから。

月城も何か言いたそうだった。

けれど、
確かな証拠は何もない。

陽依も否定する。

だから踏み込めない。

教師としての勘と、教師としての限界。

その間で立ち尽くしているようだった。

「何かあったら相談してよ」

最後にそう言って、
月城は職員室へ戻っていった。

陽依はその背中を見送った。

助けてほしい。

でも言えない。

気づいてほしい。

でも知られたくない。

矛盾した気持ちだけが膨らんでいく。

そして、その日の放課後。

下駄箱を開けた瞬間、
陽依の呼吸が止まった。

中に入っていた上履きが、
刃物で切り裂かれていた。