僅かな距離

同じ頃。

月城翔平は自宅の机に向かっていた。

学校から持ち帰った資料を整理している。

明日の授業準備。
提出物の確認。

担任になってからは家に仕事を持ち帰ることも珍しくなかった。

けれど、
その夜は何度も手が止まった。

理由は分かっている。

月島だった。

階段で見た顔。
泣きそうな顔。
何もありませんと言いながら、明らかに何かを抱えていた顔。

あの表情が頭から離れない。

月城はペンを置いた。
椅子の背にもたれる。

そして天井を見上げた。

「何があったんだよ。」

独り言が零れる。

答える人はいない。

当然だ。
けれど。

教師という立場が時々もどかしくなる。

生徒が苦しんでいることは分かる。

なのに、
本人が話してくれなければ踏み込めない。

無理に聞き出すこともできない。

それが正しい距離感だと分かっていても。
見ているだけしかできない自分に苛立つことがあった。