僅かな距離

何も言い返せない。

言葉が出てこない。

女子はさらに続ける。

「先生のこと好きな子なんてたくさんいるし。」

「別にあんただけじゃない。」

「勘違いしない方がいいよ。」

その言葉が胸を抉る。

分かっている。

そんなこと最初から分かっている。

月城は人気がある。

優しいし。

面倒見もいいし。

生徒から慕われている。

自分だけが特別なわけじゃない。

そんなこと。

一番自分が分かっている。

なのに。

なぜだろう。

胸が苦しくなる。
目の奥が熱くなる。

「……帰ります。」

陽依は小さく言った。

もう限界だった。

これ以上ここにいたら本当に泣いてしまいそうだった。
女子たちは一瞬驚いた顔をした。

けれど、すぐに笑う。

「逃げるんだ。」

その言葉に足が止まりそうになる。

でも陽依は振り返らなかった。

振り返ったら終わる気がした。

だからそのまま歩き出す。
足元が少し揺れて見えた。
視界が滲んでいた。

泣きたくない。
泣きたくないのに。
涙は勝手に溢れてくる。

誰もいない階段を下りながら、陽依は必死に唇を噛み締めた。

その時だった。
階下から誰かの足音が聞こえてきたのは。

ゆっくりと。
こちらへ近づいてくる足音だった。