「つきまとわないで!」
若干語気を荒げた、しかしどこか澄んだ女性の声がキャンパスの”広場”と呼ばれてる場所に響く。
続いて少しおどけた少年の様な声がそれを追いかけた。
「ちょっと待ってよぉ~! 相変わらず冷たいなぁ」
今日も繰り広げられるこの二人の掛け合い。
今となってはキャンパスのちょっとした名物といったところだ。
その声の主たちは──。
黒髪を束ね、クリーム色のブラウスとマスタード色のプリーツパンツ、切れ長のつり眼で凛々しい顔つきの女性は『天王寺 光』。
運動も学業も無難にこなし、そのキツ目の外見とは裏腹に朗らかで優しいと言われている。
ただし同性に対しては、だが。
男性相手の場合、非常に素っ気ない。
苦手というよりは嫌っている、という感じだ。
今、この場にも光に対して「憧れ」や「苦い思い」を持っている者もいるかもしれない。
そんな彼女を追いかけている青いTシャツにジーンズの、短い髪をツンツン立たせた少し小柄な男性は『信濃川 嵐太郎』。
彼は一見おとなしく真面目そうな顔つきなのだが見た目に反して楽観的で思い付きで行動するタイプ、というのが大抵の友人たちの評価だ。
そして”飽きっぽい”というのも共通認識だ。
だから光への行動も友人たちには一時的なものだと思われていた。
だが初夏から始まったこの光景はまだ暑さが残るとはいえ、そろそろ年末という今でも繰り返されている。
「朝の挨拶くらいでヒトをストーカーみたいに言わないでよぉ~」
「待ち伏せしてるでしょ!? ……今日は何時間ココにいたわけ?」
言われて今気がついたというように嵐太郎はスマホを確認する。
「1時間半くらいかな……よくわかったねぇ?」
「いつもの事でしょ。それにもう朝じゃないわよ」
再び時間を確認して「なるほど」と納得する嵐太郎を早足で置いていく光。
「じゃ、講義があるから」
「あぁ、待ってよ! 榎木教授のだろ? 僕も一緒じゃんかー!」
移り行く季節の中の変わらない日常。
それでも、ほんの少しずつ変化はあるもの。
最初の頃は光の言葉に嫌悪感が滲み出ていたものだが……誰も気づかないわずかな変化の日々こそが日常というものなのかもしれない。
† † †
「でしょ~? だから甲斐も連れてカラオケ行こうよ、友里葉ちゃん。もちろん天王寺さんも一緒で!」
時計はそろそろ午後の5時を指そうとしている。
光は親友である友里葉とこの後ウィンドウショッピングでも、という予定だった。
しかし、やはりと言うかべきか目敏く二人を見つけた嵐太郎と友里葉の会話はどうもあやしい方向へと流れているようだ。
「えぇ~、甲斐君って結構忙しいんじゃないのぉ? 迷惑じゃないかなぁ? 彼女とかいるんでしょぉ?」
「ぜぇ~んぜんOK! 天王寺さんが来るなら引きずってでも連れてくるッ!!」
満面の笑みで親指を立てる嵐太郎に少し噴き出す友里葉。
「嵐太郎君、必死すぎぃー! でも行こぉよー光。学祭でライヴやってた甲斐君だよぉ!? いこ~よぉ~!」
光は「はぁ」とため息をついて考える。
どうやらこの男の特技は『誰とでも仲良くなれる事』らしい。
この半年で光の友人の大半は嵐太郎の友人でもある、という事になってしまっている。
しかも昔からの馴染みであるかのように、今現在も傍観している間に「休みには何処に行こうか」という話にまで進んでおり、友里葉が海に行きたがって嵐太郎が泳げないという話で盛り上がっている。
『この時期に泳がないでしょ!』
そう内心ツッコミを入れていた光だが、不意に暗い靄が心を覆っていくのがわかる。
『この男の為にも、自分の為にも、あの事を話した方が良いのかもしれない』
だが心が暗く沈む暇もなく、なんだかんだと揉めた後カラオケでは歌田ルカ(※)を歌ってから家路につくことになった光だった。
※実力派シンガーソングライター
† † †
「信濃川くん、『預言者カノト』って知ってる?」
「え?」
午前の講義の後、珍しく……というか初めて光に呼び出され喜び勇んで待ち合わせた大学からは若干距離があるコーヒーショップに来た嵐太郎は、入り口で「僕ホットコーヒーねぇー!」とカウンターに笑顔で告げて光を呆れさせたが、届いたコーヒーを飲む間もなく質問されていた。
「あ…あぁ~、知ってる知ってる! 何年か前に話題になった人だよね」
「そう、絶対に外さない現代の預言者……とか言われてた」
「でも、たしか事故だかで亡くなったんだよね? それ自体も予言してて何で事故にあったのかぁ~とかTVで騒いでたけど、アレってホントなのかねぇ~?」
嵐太郎はそれらの特番に夢中になっていた方だが、同時に浪人という苦い思い出でもあって抑え気味に答える。
「本当よ。彼女、よく言ってたわ。『自分は未来を見る力はあるけど変える力はない』って」
そんな一時期の流行りを追っていた嵐太郎は『そんな事TVで言ってたかな?』と思いながらも、自分に対していつもより多く言葉を発してくれる光が、またいつにも増して厳しい表情である事が気にかかっていた。
「ふ~ん。天王寺さんって占いとか興味ないと思ってたけど、随分詳しいんだね。ファンだったとか?」
「彼女のは占いじゃなくて予言よ。『カノト』っていう名前も、死んでから預言者として認められると知っていたから『彼岸の人』で『彼の人』。つまり此岸の世界にはいない人という意味」
嵐太郎は思い出していた。
当時高校3年生だった彼はTV好きで、特にオカルトっぽいものは大好きだった。
そのため、あの預言者報道は欠かさず観ていたクチだ。
詳しい出生は謎につつまれていたが、代々予知能力のようなものを持った血筋との事で予言詩をいくつも残していた。
また放映日を指定し、その日まで絶対秘密にするという条件でTVインタビュー形式の予言もしていた。
それらのTV番組はビデオテープや予言詩を見て実際に起きた事件と比較しゲストが討論するというものがほとんどで光が話したような事は聞いた覚えがない。
『なんで彼女はそんな話を僕にしているのだろうか?』
嵐太郎の胸中にモヤモヤしたものが渦巻く。
「急にどうして、そんな話を?」
「あなた──」
光が嵐太郎の目をじっとみつめている。
こんなにも長い間みつめられるのは初めてで、嵐太郎は胸の高鳴りを感じ始めていた。
「あなたに私の秘密を教えてあげるわ」
「あ……へっ?」
予想外の言葉が続き、一瞬理解できず間抜けな声を出してしまう嵐太郎。
「面倒な事になりたくないから誰にも言わないで欲しいんだけど……」
「いや、もちろん誰にも言わないよ! 天王寺さんが言って欲しくないって言うなら!」
「そう……」
『言わないで欲しい』と言ったわりには嵐太郎の返事など興味がないといった感じで、光は自分の手元のコーヒーをスプーンでゆっくりとかき回しながら答える。
光はそれからしばしの間ガラスごしの通りの風景を観ていた。
まだ昼食の時間が過ぎたばかりで、車は急かすように車道を通るものの人通りはまばらだ。
何を観るでもない横顔を見ながら、嵐太郎は『本当に綺麗だ』と思う。
一般的に言えば光は”美人”という程でもないだろう。
だが嵐太郎にとっては違う。
容姿の趣味だけの話ではなく、そのしぐさや表情、強い意志を感じる瞳、そのすべてが嵐太郎独特の理想に限りなく近かった。
いや、彼女こそが理想だと後から決めたのかもしれない。
そうして何ヶ月ものあいだ光を目で追い続けていた。
そして今、久しぶりに彼女が『凄く寂しそう』とも感じている。
初めて見た時の彼女もこの表情をしていた事を思い出した。
そういえば今日は濃いグレーのカットソー、珍しく重めの色の装いだ。
乱太郎がそんな事を考えていると、不意に光は嵐太郎に向き直りまっすぐに彼の目を見つめる。
「私はあなたとお付き合いすることはできないわ。だから本当に、もう付きまとって欲しくないの」
いつもより真剣に、しかも面と向かって言われる。
さすがに何事にも前向きで楽観的、笑顔を絶やさない嵐太郎でも表情が曇る。
「えっと……誰か、好きな人がいるって事かな?」
「そんな人いない!」
間髪入れずに否定され、嵐太郎は更に困惑の表情を深める。
「そんなに迷惑だったかな……」
光は再びコーヒーに視線を落とし何も答えなかった。
光の沈黙を嵐太郎は肯定ととった。
「そうかぁ」
せめておどけた顔を見せようと一度視線を上げてはみたものの、うまく表情を作れなくておおげさに俯いてみせるしかなかった。
嵐太郎自身も少し意外だったが、自分で思っていた以上に気持ちが大きくなっていたようだ。
「カノトは……私の双子の姉なのよ」
「……は、え!?」
2回目の間抜けな返事を披露した嵐太郎はまさに大混乱中だった。
そしてそれが秘密の話だと理解した頃に光は話を続ける。
「彼女の……姉の予言は絶対なの。避けることが出来ない運命を読んで……た」
光は姉の事を思い出し少し言葉に詰まる。
そして姉が言っていた言葉をなぞるように話を続ける。
「例えば『明日事故に遭う』と言われたら絶対に遭うの。いつもと違う道を使おうが家から出なかろうが関係なく、ね」
混乱し、もはやただ話を受け入れる事にした嵐太郎は思う。
『そんなの……どうしようもないじゃないか』
ずっと見つめあって話していた二人だが、真剣な彼女の表情に気圧されて嵐太郎に照れている余裕もなかった。
「姉さんは……」
光は視線を落とし辛そうな表情を浮かべる。
「その力を『呪い』と呼んでた……。だからずっと誰にも秘密にしてたのに……」
それはただ光の心から出た声だった。
『呪いか……』
嵐太郎はある意味納得していた。
自分では知れるはずもない未来を誰かに言い当てられて、しかもそれが避けられない。
それではその人に呪われているように見えても仕方がないだろう。
しばしの沈黙の後、光は再び嵐太郎の目を見つめて続けた。
「姉さんは私への予言を一つだけ残したの」
嵐太郎は息をのむ。
『姉が残した…呪い……』
既に弱り切っていた嵐太郎の心が、思考を放棄するほどの重い言葉が続いた。
「私が最初に愛した人はね、死ぬのよ」
若干語気を荒げた、しかしどこか澄んだ女性の声がキャンパスの”広場”と呼ばれてる場所に響く。
続いて少しおどけた少年の様な声がそれを追いかけた。
「ちょっと待ってよぉ~! 相変わらず冷たいなぁ」
今日も繰り広げられるこの二人の掛け合い。
今となってはキャンパスのちょっとした名物といったところだ。
その声の主たちは──。
黒髪を束ね、クリーム色のブラウスとマスタード色のプリーツパンツ、切れ長のつり眼で凛々しい顔つきの女性は『天王寺 光』。
運動も学業も無難にこなし、そのキツ目の外見とは裏腹に朗らかで優しいと言われている。
ただし同性に対しては、だが。
男性相手の場合、非常に素っ気ない。
苦手というよりは嫌っている、という感じだ。
今、この場にも光に対して「憧れ」や「苦い思い」を持っている者もいるかもしれない。
そんな彼女を追いかけている青いTシャツにジーンズの、短い髪をツンツン立たせた少し小柄な男性は『信濃川 嵐太郎』。
彼は一見おとなしく真面目そうな顔つきなのだが見た目に反して楽観的で思い付きで行動するタイプ、というのが大抵の友人たちの評価だ。
そして”飽きっぽい”というのも共通認識だ。
だから光への行動も友人たちには一時的なものだと思われていた。
だが初夏から始まったこの光景はまだ暑さが残るとはいえ、そろそろ年末という今でも繰り返されている。
「朝の挨拶くらいでヒトをストーカーみたいに言わないでよぉ~」
「待ち伏せしてるでしょ!? ……今日は何時間ココにいたわけ?」
言われて今気がついたというように嵐太郎はスマホを確認する。
「1時間半くらいかな……よくわかったねぇ?」
「いつもの事でしょ。それにもう朝じゃないわよ」
再び時間を確認して「なるほど」と納得する嵐太郎を早足で置いていく光。
「じゃ、講義があるから」
「あぁ、待ってよ! 榎木教授のだろ? 僕も一緒じゃんかー!」
移り行く季節の中の変わらない日常。
それでも、ほんの少しずつ変化はあるもの。
最初の頃は光の言葉に嫌悪感が滲み出ていたものだが……誰も気づかないわずかな変化の日々こそが日常というものなのかもしれない。
† † †
「でしょ~? だから甲斐も連れてカラオケ行こうよ、友里葉ちゃん。もちろん天王寺さんも一緒で!」
時計はそろそろ午後の5時を指そうとしている。
光は親友である友里葉とこの後ウィンドウショッピングでも、という予定だった。
しかし、やはりと言うかべきか目敏く二人を見つけた嵐太郎と友里葉の会話はどうもあやしい方向へと流れているようだ。
「えぇ~、甲斐君って結構忙しいんじゃないのぉ? 迷惑じゃないかなぁ? 彼女とかいるんでしょぉ?」
「ぜぇ~んぜんOK! 天王寺さんが来るなら引きずってでも連れてくるッ!!」
満面の笑みで親指を立てる嵐太郎に少し噴き出す友里葉。
「嵐太郎君、必死すぎぃー! でも行こぉよー光。学祭でライヴやってた甲斐君だよぉ!? いこ~よぉ~!」
光は「はぁ」とため息をついて考える。
どうやらこの男の特技は『誰とでも仲良くなれる事』らしい。
この半年で光の友人の大半は嵐太郎の友人でもある、という事になってしまっている。
しかも昔からの馴染みであるかのように、今現在も傍観している間に「休みには何処に行こうか」という話にまで進んでおり、友里葉が海に行きたがって嵐太郎が泳げないという話で盛り上がっている。
『この時期に泳がないでしょ!』
そう内心ツッコミを入れていた光だが、不意に暗い靄が心を覆っていくのがわかる。
『この男の為にも、自分の為にも、あの事を話した方が良いのかもしれない』
だが心が暗く沈む暇もなく、なんだかんだと揉めた後カラオケでは歌田ルカ(※)を歌ってから家路につくことになった光だった。
※実力派シンガーソングライター
† † †
「信濃川くん、『預言者カノト』って知ってる?」
「え?」
午前の講義の後、珍しく……というか初めて光に呼び出され喜び勇んで待ち合わせた大学からは若干距離があるコーヒーショップに来た嵐太郎は、入り口で「僕ホットコーヒーねぇー!」とカウンターに笑顔で告げて光を呆れさせたが、届いたコーヒーを飲む間もなく質問されていた。
「あ…あぁ~、知ってる知ってる! 何年か前に話題になった人だよね」
「そう、絶対に外さない現代の預言者……とか言われてた」
「でも、たしか事故だかで亡くなったんだよね? それ自体も予言してて何で事故にあったのかぁ~とかTVで騒いでたけど、アレってホントなのかねぇ~?」
嵐太郎はそれらの特番に夢中になっていた方だが、同時に浪人という苦い思い出でもあって抑え気味に答える。
「本当よ。彼女、よく言ってたわ。『自分は未来を見る力はあるけど変える力はない』って」
そんな一時期の流行りを追っていた嵐太郎は『そんな事TVで言ってたかな?』と思いながらも、自分に対していつもより多く言葉を発してくれる光が、またいつにも増して厳しい表情である事が気にかかっていた。
「ふ~ん。天王寺さんって占いとか興味ないと思ってたけど、随分詳しいんだね。ファンだったとか?」
「彼女のは占いじゃなくて予言よ。『カノト』っていう名前も、死んでから預言者として認められると知っていたから『彼岸の人』で『彼の人』。つまり此岸の世界にはいない人という意味」
嵐太郎は思い出していた。
当時高校3年生だった彼はTV好きで、特にオカルトっぽいものは大好きだった。
そのため、あの預言者報道は欠かさず観ていたクチだ。
詳しい出生は謎につつまれていたが、代々予知能力のようなものを持った血筋との事で予言詩をいくつも残していた。
また放映日を指定し、その日まで絶対秘密にするという条件でTVインタビュー形式の予言もしていた。
それらのTV番組はビデオテープや予言詩を見て実際に起きた事件と比較しゲストが討論するというものがほとんどで光が話したような事は聞いた覚えがない。
『なんで彼女はそんな話を僕にしているのだろうか?』
嵐太郎の胸中にモヤモヤしたものが渦巻く。
「急にどうして、そんな話を?」
「あなた──」
光が嵐太郎の目をじっとみつめている。
こんなにも長い間みつめられるのは初めてで、嵐太郎は胸の高鳴りを感じ始めていた。
「あなたに私の秘密を教えてあげるわ」
「あ……へっ?」
予想外の言葉が続き、一瞬理解できず間抜けな声を出してしまう嵐太郎。
「面倒な事になりたくないから誰にも言わないで欲しいんだけど……」
「いや、もちろん誰にも言わないよ! 天王寺さんが言って欲しくないって言うなら!」
「そう……」
『言わないで欲しい』と言ったわりには嵐太郎の返事など興味がないといった感じで、光は自分の手元のコーヒーをスプーンでゆっくりとかき回しながら答える。
光はそれからしばしの間ガラスごしの通りの風景を観ていた。
まだ昼食の時間が過ぎたばかりで、車は急かすように車道を通るものの人通りはまばらだ。
何を観るでもない横顔を見ながら、嵐太郎は『本当に綺麗だ』と思う。
一般的に言えば光は”美人”という程でもないだろう。
だが嵐太郎にとっては違う。
容姿の趣味だけの話ではなく、そのしぐさや表情、強い意志を感じる瞳、そのすべてが嵐太郎独特の理想に限りなく近かった。
いや、彼女こそが理想だと後から決めたのかもしれない。
そうして何ヶ月ものあいだ光を目で追い続けていた。
そして今、久しぶりに彼女が『凄く寂しそう』とも感じている。
初めて見た時の彼女もこの表情をしていた事を思い出した。
そういえば今日は濃いグレーのカットソー、珍しく重めの色の装いだ。
乱太郎がそんな事を考えていると、不意に光は嵐太郎に向き直りまっすぐに彼の目を見つめる。
「私はあなたとお付き合いすることはできないわ。だから本当に、もう付きまとって欲しくないの」
いつもより真剣に、しかも面と向かって言われる。
さすがに何事にも前向きで楽観的、笑顔を絶やさない嵐太郎でも表情が曇る。
「えっと……誰か、好きな人がいるって事かな?」
「そんな人いない!」
間髪入れずに否定され、嵐太郎は更に困惑の表情を深める。
「そんなに迷惑だったかな……」
光は再びコーヒーに視線を落とし何も答えなかった。
光の沈黙を嵐太郎は肯定ととった。
「そうかぁ」
せめておどけた顔を見せようと一度視線を上げてはみたものの、うまく表情を作れなくておおげさに俯いてみせるしかなかった。
嵐太郎自身も少し意外だったが、自分で思っていた以上に気持ちが大きくなっていたようだ。
「カノトは……私の双子の姉なのよ」
「……は、え!?」
2回目の間抜けな返事を披露した嵐太郎はまさに大混乱中だった。
そしてそれが秘密の話だと理解した頃に光は話を続ける。
「彼女の……姉の予言は絶対なの。避けることが出来ない運命を読んで……た」
光は姉の事を思い出し少し言葉に詰まる。
そして姉が言っていた言葉をなぞるように話を続ける。
「例えば『明日事故に遭う』と言われたら絶対に遭うの。いつもと違う道を使おうが家から出なかろうが関係なく、ね」
混乱し、もはやただ話を受け入れる事にした嵐太郎は思う。
『そんなの……どうしようもないじゃないか』
ずっと見つめあって話していた二人だが、真剣な彼女の表情に気圧されて嵐太郎に照れている余裕もなかった。
「姉さんは……」
光は視線を落とし辛そうな表情を浮かべる。
「その力を『呪い』と呼んでた……。だからずっと誰にも秘密にしてたのに……」
それはただ光の心から出た声だった。
『呪いか……』
嵐太郎はある意味納得していた。
自分では知れるはずもない未来を誰かに言い当てられて、しかもそれが避けられない。
それではその人に呪われているように見えても仕方がないだろう。
しばしの沈黙の後、光は再び嵐太郎の目を見つめて続けた。
「姉さんは私への予言を一つだけ残したの」
嵐太郎は息をのむ。
『姉が残した…呪い……』
既に弱り切っていた嵐太郎の心が、思考を放棄するほどの重い言葉が続いた。
「私が最初に愛した人はね、死ぬのよ」
