ちゃんはちの回復は遅かった。
外傷は治っているが、なぜか目を覚まさない。
体の内部でなにかが起きているのかもしれないというむーの言葉に、花韮までもが心配になっていた。
花韮目線だと、ちゃんはちを怒鳴り散らかした後の事情が不透明なのだ。もしかしたら自分のせいかもしれないという自責の念があったのだろう。
しかし、そんな花韮よりも、くいの方がちゃんはちのことを心配していた。
それは、むーがちゃんはちの体の状態を調べるために研究室を一時封鎖したときも、毎日朝昼晩と研究室前に行き、助手(仮)であるいかりからちゃんはちの容態を聞いていたぐらいに。
「…お前、マジでちゃんはちのこと好きだよな」
「好きではない、尊敬しているんだ。尊敬している人が回復しないとなると心配になるのは必然だろう。」
いかりとくいは、何度もこんな会話をした。
それと同時に問題となったのは、しずく…ではなかった。
リーダーが役目を果たせていない今、花幻郷グループの事情について決められるのは副グループリーダーのやみ。
やみは、副グループリーダーとはいえリーダー無しにしずくの処罰を決めてはならないと思い、それ以外のことについて目を置いた。
それは、少し前から問題視されている黒いローブを身に纏った変質者。
未だに解決の目処が立たない変質者の存在に、やみは不信感を抱いていた。
遠征依頼も何度も来ているし、なによりやみが引っかかったのは情報の散乱さ。
遠征依頼が来るということは、変質者はなにか行動を起こしているということだ。実際に、やみ達にもそのように依頼書が届いている。
農作物が荒らされた。攻撃された。村一番の景観を台無しにされた。
それだけならまだマシな方だが、時に子供が拐われたなどとんでもない事案まで届く。
幸い、子供は隣の町に連れられる程度に収まっていたが、それが拡大したら…。
こんなにも重大な事柄を解決できていないのは、変質者の情報が散乱しているからだ。
変質者は、まるで魔法でも使用しているかのようなほど俊敏に行動している。
北で被害があったと思えば、南で被害が出ている。また、西で被害が出たと思ったら南から東にかけてに被害が出るなど。
時にはそのまま北に滞在したのか、何度も北に被害が出ていることもしばしば。
だから、どんなに早く現場に着いても変質者はいなく、どこかに張って待っていようにもまずどこに目をつければいいのかが分からない。
__やみは、そのようなことを紙に書く。
(…神出鬼没、という言葉が似合うわね。)
「やみ。今いいか。」
扉の向こうから、花韮の声が聞こえた。
「いいわよ。」
やみはそう軽く言いながら、先ほど書いた資料をまとめる。
声を聞いた花韮は、扉を開けてやみに近づく。
「何をしているんだ。」
「今は資料を作っていたわ。はい、これ。」
やみは、先ほどの資料を花韮に手渡す。
花韮は、ガサッと渡された資料に目を落とす。
「…黒いローブ。例のか。」
「えぇそうよ。」
「しずくの件はどうするんだ。」
「ちゃんはちに聞きなさい。副リーダーとは言え、その判断は私がすることではないわ。」
「…ふん。そうか。」
花韮は資料を机に叩きつける。
「…お前も可哀想だな。リーダーがあんなので。」
「ちゃんはちの悪口を言うのはやめてくれ。」
突如として、入り口付近から声が聞こえた。
やみと花韮はそちらを見る。
そこには、扉を手で抑えるくいがいた。
「ちゃんはちは、敵に向かって走った。そして私達を助けてくれた。認めてくれた。…そんなちゃんはちを否定するのは、私が許さん。」
くいは、花韮の瞳を見つめながら強く言い放つ。
いつも表情を崩さないくいが、眉を強く顰め、歯を食いしばり、離さんと言わんばかりに目を開いて、漆黒の瞳で花韮を捉える。
花韮も、その青い瞳で、くいの瞳を見つめる。
「…過ごした時が長いのなら、癖も似るのか。ちゃんはちも無謀な事を言っていたよ。ちょうど一年前ぐらいか。今のお前のように、私の瞳をまっすぐ見つめてな。」
「知っている。いや、覚えている。あれは、あいつが私を助けるためにしてくれた事だからな。」
「では、今のお前もちゃんはちを助けるためにしたことなのか?」
「助けたのではない。お前に、警告をしたんだ。」
「ほぉ。お前も随分言うようになったな。」
花韮はそう言いながら、自身の腰にある剣に手を当てる。
それでも、くいは動じない。ただそこに立ち、ちゃんはちを守る盾のように。
その様子を見て、花韮は剣を引き抜こうと__
「やめなさい。流石に度が過ぎているわ。」
やみの手が、花韮の手を掴んだ。
地位に差があるとはいえ、やみも花幻郷最強グループに所属している。
花韮を掴んだ手は、力強い。
花韮は、やみに視線をずらす。
くいは、その隙を見逃さなかった。
自身の手に魔力を練って、刀を創り出す。
「ッ!?やめなさい!」
やみの止める声を無視して刀を振り上げ、花韮の首に振り下げる。
そして、花韮の首に刀が触れる瞬間。
くいは刀を止めた。
花韮は無表情で、けれども楽しそうな感情を瞳に乗せて呟く。
「__合格だ。」
「やはりな。お前が実の弟子であるあいつをあそこまで貶す事は言わん。」
「それに反応して部屋に乗り込んできたことも評価しよう。約束通り、私はお前の存在を認める。」
二人は、突然そのような会話を繰り広げる。
やみは頭にはてなを浮かべる。なにがどうなっているのかさっぱりわからない様子だ。
「やみすまん。巻き込んでしまって。私はこいつを未だ信用していなかったんだ。いつかちゃんはちを裏切るかもしれないとな。だからこいつにテストを課したんだ。いつか、お前に予告をせずテストを行う。それに合格すれば、お前の存在を認める、とな。」
「一年前、だな。ちゃんはちが博士に話の情報共有機器を貰いに行くときがあっただろう?あのときに花韮からこの話を聞かされてな。」
「…そう、だったのね。いやまぁ、そう思ったらゲームのようでワクワクしたわ。けれどね貴方。情報共有はちゃんとしなさい。」
「すまん。が、驚いたよ。くいはテストだと勘づいていたからあんな挑戦的な目を見せれたが、お前はそれを知らなかったんだろう?なのにあんな目で私を見つめるとはな。」
花韮は、面白ように目を細める。
やみとくいは安心したようにため息をついた。
刀を魔力の粒子に戻しながら、くいは呟く。
「…そういえば、むーがちゃんはちの状態が変わり回復傾向にあるそうだぞ?」
「え、そうなの?」
「あぁ。それをやみに言いに来たときにこの現場になったんだ。」
「私は狙っていないぞ。お前の運命力かもな。」
「それなら嬉しいがな。」
「…それなら、研究室に行きましょう。」
「いや、もう一つ。むーがこのチャンスは逃せないとこもりっきりで研究をするらしい。みんなに"研究室付近には当分近づかないでほしい"と伝言してくれと頼まれたんだ。」
「あぁそう。それなら…」
「私が言いに行こう。お前には悪い事をした。少しは役に立たせてくれ。」
「いいのかしら。それなら私は黒いローブの変質者の情報をまたまとめるわね。貴方、ちゃんと目は通したでしょう?」
「当たり前だ。良い報告書だったよ。行ってくる。」
花韮はそう言いながら、扉を開けて開けて外へ出ていった。
「…花韮って、人を褒めることがあるんだな。」
くいのその言葉に、やみは意外だわ、と返すのだった。
外傷は治っているが、なぜか目を覚まさない。
体の内部でなにかが起きているのかもしれないというむーの言葉に、花韮までもが心配になっていた。
花韮目線だと、ちゃんはちを怒鳴り散らかした後の事情が不透明なのだ。もしかしたら自分のせいかもしれないという自責の念があったのだろう。
しかし、そんな花韮よりも、くいの方がちゃんはちのことを心配していた。
それは、むーがちゃんはちの体の状態を調べるために研究室を一時封鎖したときも、毎日朝昼晩と研究室前に行き、助手(仮)であるいかりからちゃんはちの容態を聞いていたぐらいに。
「…お前、マジでちゃんはちのこと好きだよな」
「好きではない、尊敬しているんだ。尊敬している人が回復しないとなると心配になるのは必然だろう。」
いかりとくいは、何度もこんな会話をした。
それと同時に問題となったのは、しずく…ではなかった。
リーダーが役目を果たせていない今、花幻郷グループの事情について決められるのは副グループリーダーのやみ。
やみは、副グループリーダーとはいえリーダー無しにしずくの処罰を決めてはならないと思い、それ以外のことについて目を置いた。
それは、少し前から問題視されている黒いローブを身に纏った変質者。
未だに解決の目処が立たない変質者の存在に、やみは不信感を抱いていた。
遠征依頼も何度も来ているし、なによりやみが引っかかったのは情報の散乱さ。
遠征依頼が来るということは、変質者はなにか行動を起こしているということだ。実際に、やみ達にもそのように依頼書が届いている。
農作物が荒らされた。攻撃された。村一番の景観を台無しにされた。
それだけならまだマシな方だが、時に子供が拐われたなどとんでもない事案まで届く。
幸い、子供は隣の町に連れられる程度に収まっていたが、それが拡大したら…。
こんなにも重大な事柄を解決できていないのは、変質者の情報が散乱しているからだ。
変質者は、まるで魔法でも使用しているかのようなほど俊敏に行動している。
北で被害があったと思えば、南で被害が出ている。また、西で被害が出たと思ったら南から東にかけてに被害が出るなど。
時にはそのまま北に滞在したのか、何度も北に被害が出ていることもしばしば。
だから、どんなに早く現場に着いても変質者はいなく、どこかに張って待っていようにもまずどこに目をつければいいのかが分からない。
__やみは、そのようなことを紙に書く。
(…神出鬼没、という言葉が似合うわね。)
「やみ。今いいか。」
扉の向こうから、花韮の声が聞こえた。
「いいわよ。」
やみはそう軽く言いながら、先ほど書いた資料をまとめる。
声を聞いた花韮は、扉を開けてやみに近づく。
「何をしているんだ。」
「今は資料を作っていたわ。はい、これ。」
やみは、先ほどの資料を花韮に手渡す。
花韮は、ガサッと渡された資料に目を落とす。
「…黒いローブ。例のか。」
「えぇそうよ。」
「しずくの件はどうするんだ。」
「ちゃんはちに聞きなさい。副リーダーとは言え、その判断は私がすることではないわ。」
「…ふん。そうか。」
花韮は資料を机に叩きつける。
「…お前も可哀想だな。リーダーがあんなので。」
「ちゃんはちの悪口を言うのはやめてくれ。」
突如として、入り口付近から声が聞こえた。
やみと花韮はそちらを見る。
そこには、扉を手で抑えるくいがいた。
「ちゃんはちは、敵に向かって走った。そして私達を助けてくれた。認めてくれた。…そんなちゃんはちを否定するのは、私が許さん。」
くいは、花韮の瞳を見つめながら強く言い放つ。
いつも表情を崩さないくいが、眉を強く顰め、歯を食いしばり、離さんと言わんばかりに目を開いて、漆黒の瞳で花韮を捉える。
花韮も、その青い瞳で、くいの瞳を見つめる。
「…過ごした時が長いのなら、癖も似るのか。ちゃんはちも無謀な事を言っていたよ。ちょうど一年前ぐらいか。今のお前のように、私の瞳をまっすぐ見つめてな。」
「知っている。いや、覚えている。あれは、あいつが私を助けるためにしてくれた事だからな。」
「では、今のお前もちゃんはちを助けるためにしたことなのか?」
「助けたのではない。お前に、警告をしたんだ。」
「ほぉ。お前も随分言うようになったな。」
花韮はそう言いながら、自身の腰にある剣に手を当てる。
それでも、くいは動じない。ただそこに立ち、ちゃんはちを守る盾のように。
その様子を見て、花韮は剣を引き抜こうと__
「やめなさい。流石に度が過ぎているわ。」
やみの手が、花韮の手を掴んだ。
地位に差があるとはいえ、やみも花幻郷最強グループに所属している。
花韮を掴んだ手は、力強い。
花韮は、やみに視線をずらす。
くいは、その隙を見逃さなかった。
自身の手に魔力を練って、刀を創り出す。
「ッ!?やめなさい!」
やみの止める声を無視して刀を振り上げ、花韮の首に振り下げる。
そして、花韮の首に刀が触れる瞬間。
くいは刀を止めた。
花韮は無表情で、けれども楽しそうな感情を瞳に乗せて呟く。
「__合格だ。」
「やはりな。お前が実の弟子であるあいつをあそこまで貶す事は言わん。」
「それに反応して部屋に乗り込んできたことも評価しよう。約束通り、私はお前の存在を認める。」
二人は、突然そのような会話を繰り広げる。
やみは頭にはてなを浮かべる。なにがどうなっているのかさっぱりわからない様子だ。
「やみすまん。巻き込んでしまって。私はこいつを未だ信用していなかったんだ。いつかちゃんはちを裏切るかもしれないとな。だからこいつにテストを課したんだ。いつか、お前に予告をせずテストを行う。それに合格すれば、お前の存在を認める、とな。」
「一年前、だな。ちゃんはちが博士に話の情報共有機器を貰いに行くときがあっただろう?あのときに花韮からこの話を聞かされてな。」
「…そう、だったのね。いやまぁ、そう思ったらゲームのようでワクワクしたわ。けれどね貴方。情報共有はちゃんとしなさい。」
「すまん。が、驚いたよ。くいはテストだと勘づいていたからあんな挑戦的な目を見せれたが、お前はそれを知らなかったんだろう?なのにあんな目で私を見つめるとはな。」
花韮は、面白ように目を細める。
やみとくいは安心したようにため息をついた。
刀を魔力の粒子に戻しながら、くいは呟く。
「…そういえば、むーがちゃんはちの状態が変わり回復傾向にあるそうだぞ?」
「え、そうなの?」
「あぁ。それをやみに言いに来たときにこの現場になったんだ。」
「私は狙っていないぞ。お前の運命力かもな。」
「それなら嬉しいがな。」
「…それなら、研究室に行きましょう。」
「いや、もう一つ。むーがこのチャンスは逃せないとこもりっきりで研究をするらしい。みんなに"研究室付近には当分近づかないでほしい"と伝言してくれと頼まれたんだ。」
「あぁそう。それなら…」
「私が言いに行こう。お前には悪い事をした。少しは役に立たせてくれ。」
「いいのかしら。それなら私は黒いローブの変質者の情報をまたまとめるわね。貴方、ちゃんと目は通したでしょう?」
「当たり前だ。良い報告書だったよ。行ってくる。」
花韮はそう言いながら、扉を開けて開けて外へ出ていった。
「…花韮って、人を褒めることがあるんだな。」
くいのその言葉に、やみは意外だわ、と返すのだった。
