数十分後、ちゃんはちはようやく花韮の叱責から脱出できた。
力を入れて座っていたからか、立ち上がると同時によろけて木にぶつかってしまっている。
花韮はそれを見て見ぬフリをして近くの木に体を預けて大きく息を吐いた。
そんなちゃんはちに、まふゆとしぜいやの二人は近づいてその体を押し、木の陰においやる。
「うわ!え!?なになになに!?」
「静かにしてちょうだい。」
驚くちゃんはちの口に、まふゆ自身の人差し指を押し当てる。
「…しずくのことなんだけど。」
「あぁ、しずくちゃんね。それがどしたの?」
「…それが、さっきまでのことだけじゃなく、その前の記憶が大きく欠落していることがわかったわ。」
「…その前の記憶…?」
まふゆの囁く声につられ、ちゃんはちも声を小さくしながらそう呟く。
まふゆはちゃんはちの口に押し当てていた指を口からゆっくりと離しながら囁く。
「えぇ。私達の名前までは分かるけれど、なぜ森を散歩していたのか、感情の世界とはなんなのか、この雨を降らせた原因はなんなのか。その記憶全て、しずくの頭から抜け落ちているわ。」
「嘘をついているとかではなく?」
「あの反応を見て嘘だと決めつけるのは、おそらく花韮だけよ。」
ちゃんはちは目線を下に落とす。
そして、何かを考えついたのか、ハッとしたように顔を上げる。
「それなら、しずくを仲間に迎え入れよう」
「はっちゃん、名案だね!」
「…疑ってはないないけれど、本当にしずくの言うことを信じるのかしら?」
「うん。もしそれが本当なのだとしたら、何かの拍子に記憶が戻るかもしれないし!それに、もしこの異変を起こした理由がしずくの自分勝手なものなら、そのときにちゃんと私が対処するよ」
「…あなたがちゃんとするのなら、別に咎めたりしないわ。」
まふゆは肩を落としてそう言う。
「けれど、勝手に決めて花韮さんは許すのかしら。」
「まぁ大丈夫だよ。くいちゃんのときもそうだったし」
「あら、くいも来ていたのね。」
「え!?くいちゃん!?」
「うん。ちょうど一年前ぐらいかな?に仲間になったよ」
「…やみと一悶着なかったかしら。」
「ご察しの通りありましたとも」
「そこにしずくが入って大丈夫なの?」
「んまぁ今のしずくなら大丈夫だよ。記憶ない人に何言っても思い出せないから仕方な…」
ちゃんはちはそこまで言って、急に言葉を止めた。
硬直したちゃんはちの顔を、まふゆは覗き込む。
「…え、え?はっちゃん!?」
「どうしたのかしら。」
まふゆがそう呟くと、ちゃんはちは目を震わせながら言葉を発する。
「…思い出したんだよ。くいといかり、花幻山に行ったっきり行方不明なんだけど、それ以前に二人は元々土砂崩れに巻き込まれた人を助けに行っていたんだ。人を助けた後に事件に巻き込まれたんなら…よくはないけど、もし人助けをする前に事件に巻き込まれてたら…」
「…それ本気かしら。」
「そ、それ、だいぶやばいんじゃ!?」
「うわぁぁどうしよう!?てかくいちゃんといかりちゃんはどこ行っちゃったのさ!」
ちゃんはちがそう叫んだ瞬間、一つの木が揺れる。
それは、花韮が体を預けていた木だった。
しかし、その木にはもう花韮はいない。
「…?花韮さん、どこに行ったのかしら。」
「花韮のことだから、私たちの話してたこと盗み聞きして土砂崩れに巻き込まれた人を助けに行ったんじゃない?」
「…あなた、もしかしてわざとこの話を…」
「いやぁまさかまさか。今思い出したんだよ。そんな煙花散花最強様のことを道具みたいに扱うわけないじゃん」
ちゃんはちは手をひらひらさせながらわざとらしくそう言う。
「…あなたがそう言うのならいいけれど。」
「まぁまぁ。…てか、しずくはどこ行ったの?」
「寝てしまったわ。あの子が覚えてないとは言え、長く続いたこの雨はおそらくしずくが降らしていたもの。ずっと能力を使用していたのだとしたら、急に使用を止めると反動が来るわ。」
「多分しずくちゃんは、反動で寝ちゃったんだと思う」
しぜいやは、眉をひそめて心配そうに言う。
反動とは、魔力を大幅に消費したり一度に膨大の魔力を使用して一瞬で魔力切れになってしまった際に大きな隙を見せるという現象。
人によって反動の形や見せ方は違う。今回のしずくは眠りにつくというものだったが、人によっては思考が止まったり甘えん坊になったり、体が鉛のように重くなってしまう。
「なるほどなぁ。まぁそれならしずくを家に__」
ちゃんはちが言いかけた瞬間、自身の固有能力である【位置把握】が強い魔力を探知した。
方向は花幻山の裏側だろう。勢いよくこちらに向かってきている。
ちゃんはちは剣を創り、そちらを見て睨みつける。
「…何があったのかしら?」
「何かが来てる。」
それはずんずんと進んできて、ついに姿が認識できる寸前のところまで来た。
ちゃんはちは地面を勢いよく蹴って空中に高く上がり、それに向かって剣を振り下げる。
__しかし、それが何か認識した瞬間、ちゃんはちは体勢を大きく崩して地面に向かって落ちていってしまった。
まふゆとしぜいやはそれを見て構えをとる。
だが、そんな二人もやってきた何かを見た瞬間、なにをやっているのだという目でそれを見つめた。
…迫ってきた何か。
それは、先ほどちゃんはちを閉じ込めた水の泡に入ったくいといかりだった。
いや、水の泡ではなく水の膜だろうか。中に水はないように見える。
「ふ、二人とも大丈夫〜!?」
「おお久しぶりだな!ごめんけどこの膜破れるか!?うちたちじゃ破れなくてよぉ!」
「斬れている感触はあるんだがな。それにこの膜、ただの水ではなく魔力によってある程度操作されているようでな。中に満ちていた水とは性質が違うようだ。」
「中に入ってた水は全部うちの炎で蒸発させたんだけどこの膜だけ無理だったんだ!」
「なるほどね。じゃあやるからそこから動かないでちょうだい。」
「わかった!頼むぜまふゆ!」
その声に応えるように、まふゆは自身の能力を使って水の膜を凍らせて粉砕。
中から出てきた二人は、伸びをしたり花幻山の新鮮な空気を吸い込んだりして体を慣らしている。
「いやぁ助かったぜ!ありがとよ!」
「とんでもないわ。それで、あなた達はなぜすぐに花幻山を降りて助けを呼びに行かなかったのかしら?」
「ん?あぁ、ついさっきまであの水の膜動かなかったんだよ。だから諦めて二人で水の膜を斬ったり炙ったりしてたんだけどな?さっき急に動くようになってさ。なんかよくわかんねぇけどとりあえず頂上目指そうってなって今ここに来たんだよ」
「どうやら私達は花幻湖付近に居たようだ。詳しくいうと、中枢郷側の中腹あたりだな。」
「おそらく水の膜が動いた起因はしずくの記憶の正常化でしょうね。」
「は?しずく?」
「詳しく説明するね」
一通りいかり側の事情を知ったまふゆとしぜいやは、こちら側のことについての説明を始めた。
この雨は異変であったこと。その原因がしずくであったこと。しかし、しずくは洗脳状態か何かに毒されており、洗脳?が解けた今、前後の記憶や感情の世界のことなどの記憶が大きく欠落していること。
二人が元々追っていた人については花韮が救出しに行ったこと。
そこまで話すと、いかりは眉間に寄せたシワを指で激しく揉んだ。
「…つまりなんだ?この異変には別の犯人がいるってことか?」
「しずくが嘘をついていないと仮定したらそうね。けれど、しずくの洗脳が解けたようなタイミングを見た私達は、しずくが嘘をついている可能性は限りなく低いと見ているわ。」
「とんでもなかったんだよ、しずくちゃんの慌てっぷり」
「…ともかく現状ではわからないことが多々あるが…。しずくはどこだ?」
「あっちで反動起こして寝ているわ。」
「あいつは寝るだけなのか。まぁ大きな隙ではあるがかなり軽いな。」
くいはまふゆの示した方向を見ながら呟く。
すると、後ろから先ほど落下したちゃんはちがおーいと言いながら戻ってきた。
その声に反応して皆はそちらを見る。
手を振りながら走るちゃんはち。その額から血が流れていた。
血はどくどくとちゃんはちの顔を撫でるように流れ顎に到達し、一つの雫となって落ちていく。
それを目の当たりにした皆は、平然としているちゃんはちをドン引きした顔をで見つめる。
「いやぁ二人とも!無事でよかったよ!」
「お前の額は無事じゃねぇけどな」
「は?何言ってんの?」
ちゃんはちは、いかりの発言に怪訝な顔をしながら言われた額を触る。
ぬるりとした感覚が手から脳に伝わった。
それと同時に、額から猛烈な激痛を感じる。
あ、これダメなやつだ。そう思った瞬間、視界が暗転して意識が飛ぶ。
ちゃんはちは急にぐらりと体を揺らして後ろに倒れる。
「ちゃんはち!」
その光景に唯一反応できたくいが、ちゃんはちの体を受け止める。
「出血がかなり酷いわね。いかり。しずくを持って。くいはちゃんはちをそのまま。」
「お、おうよ!」
「わ、私なにしたら…」
「しぜいやはむーに連絡してちょうだい。」
まふゆはそう言いながら手に魔力を込める。
すると、ちゃんはち達の家がある方向を見つめた。
「くい。家の方角はこっちであってるかしら?」
「あぁ。…って、お前何しようとして…」
「まぁ、見たらわかるわ。」
まふゆは、一歩前に踏み出すような動作をした。
すると、あたりの温度が一気に下がる。
降っていた雨が雪の粒へと変わり、それがまふゆを中心に風に煽られるようにしてぐるぐると回る。
まふゆは、息を大きく吸う。
「【雪の間《ゆきのま》】…!『氷雪・厚膜層《ひょうせつ・こうまくそう》』!!」
吸った息を全て吐くようにそう叫びながら、まふゆは勢いよく手を前に押し出す。
すると、猛吹雪の雪が全てまふゆの手に吸い込まれ、その手からちゃんはち達の家の方面までのぶ厚い氷の滑り台のような物が出来上がった。
【雪の間】。それは、まふゆの固有能力。
雨が降っている場合のみでしか発動できないが、条件が揃えば雨粒が雪となり、雪がまふゆを中心に大きく乱れて猛吹雪になるというもの。
平和系の固有能力と見られがちだが、部類的には戦闘系に分けられている。
「ほらくい。早く行きない!」
くいは、今さっきまでの出来事に驚くが、まふゆの早く行けという声に我に返り、その氷の滑り台に座る。
氷だと言うのに冷たくない。それに触れても溶けない。
驚くくいの後ろで、しずくをおぶったいかりが早く行けと怒鳴る。
しかし、珍しいことがあると自分の世界に入ってしまうくいにはその声が届いてなく。
我慢の限界に達したいかりに背中を思っきり蹴られ、くいは滑り台を転がるようにして滑っていったのだった。
力を入れて座っていたからか、立ち上がると同時によろけて木にぶつかってしまっている。
花韮はそれを見て見ぬフリをして近くの木に体を預けて大きく息を吐いた。
そんなちゃんはちに、まふゆとしぜいやの二人は近づいてその体を押し、木の陰においやる。
「うわ!え!?なになになに!?」
「静かにしてちょうだい。」
驚くちゃんはちの口に、まふゆ自身の人差し指を押し当てる。
「…しずくのことなんだけど。」
「あぁ、しずくちゃんね。それがどしたの?」
「…それが、さっきまでのことだけじゃなく、その前の記憶が大きく欠落していることがわかったわ。」
「…その前の記憶…?」
まふゆの囁く声につられ、ちゃんはちも声を小さくしながらそう呟く。
まふゆはちゃんはちの口に押し当てていた指を口からゆっくりと離しながら囁く。
「えぇ。私達の名前までは分かるけれど、なぜ森を散歩していたのか、感情の世界とはなんなのか、この雨を降らせた原因はなんなのか。その記憶全て、しずくの頭から抜け落ちているわ。」
「嘘をついているとかではなく?」
「あの反応を見て嘘だと決めつけるのは、おそらく花韮だけよ。」
ちゃんはちは目線を下に落とす。
そして、何かを考えついたのか、ハッとしたように顔を上げる。
「それなら、しずくを仲間に迎え入れよう」
「はっちゃん、名案だね!」
「…疑ってはないないけれど、本当にしずくの言うことを信じるのかしら?」
「うん。もしそれが本当なのだとしたら、何かの拍子に記憶が戻るかもしれないし!それに、もしこの異変を起こした理由がしずくの自分勝手なものなら、そのときにちゃんと私が対処するよ」
「…あなたがちゃんとするのなら、別に咎めたりしないわ。」
まふゆは肩を落としてそう言う。
「けれど、勝手に決めて花韮さんは許すのかしら。」
「まぁ大丈夫だよ。くいちゃんのときもそうだったし」
「あら、くいも来ていたのね。」
「え!?くいちゃん!?」
「うん。ちょうど一年前ぐらいかな?に仲間になったよ」
「…やみと一悶着なかったかしら。」
「ご察しの通りありましたとも」
「そこにしずくが入って大丈夫なの?」
「んまぁ今のしずくなら大丈夫だよ。記憶ない人に何言っても思い出せないから仕方な…」
ちゃんはちはそこまで言って、急に言葉を止めた。
硬直したちゃんはちの顔を、まふゆは覗き込む。
「…え、え?はっちゃん!?」
「どうしたのかしら。」
まふゆがそう呟くと、ちゃんはちは目を震わせながら言葉を発する。
「…思い出したんだよ。くいといかり、花幻山に行ったっきり行方不明なんだけど、それ以前に二人は元々土砂崩れに巻き込まれた人を助けに行っていたんだ。人を助けた後に事件に巻き込まれたんなら…よくはないけど、もし人助けをする前に事件に巻き込まれてたら…」
「…それ本気かしら。」
「そ、それ、だいぶやばいんじゃ!?」
「うわぁぁどうしよう!?てかくいちゃんといかりちゃんはどこ行っちゃったのさ!」
ちゃんはちがそう叫んだ瞬間、一つの木が揺れる。
それは、花韮が体を預けていた木だった。
しかし、その木にはもう花韮はいない。
「…?花韮さん、どこに行ったのかしら。」
「花韮のことだから、私たちの話してたこと盗み聞きして土砂崩れに巻き込まれた人を助けに行ったんじゃない?」
「…あなた、もしかしてわざとこの話を…」
「いやぁまさかまさか。今思い出したんだよ。そんな煙花散花最強様のことを道具みたいに扱うわけないじゃん」
ちゃんはちは手をひらひらさせながらわざとらしくそう言う。
「…あなたがそう言うのならいいけれど。」
「まぁまぁ。…てか、しずくはどこ行ったの?」
「寝てしまったわ。あの子が覚えてないとは言え、長く続いたこの雨はおそらくしずくが降らしていたもの。ずっと能力を使用していたのだとしたら、急に使用を止めると反動が来るわ。」
「多分しずくちゃんは、反動で寝ちゃったんだと思う」
しぜいやは、眉をひそめて心配そうに言う。
反動とは、魔力を大幅に消費したり一度に膨大の魔力を使用して一瞬で魔力切れになってしまった際に大きな隙を見せるという現象。
人によって反動の形や見せ方は違う。今回のしずくは眠りにつくというものだったが、人によっては思考が止まったり甘えん坊になったり、体が鉛のように重くなってしまう。
「なるほどなぁ。まぁそれならしずくを家に__」
ちゃんはちが言いかけた瞬間、自身の固有能力である【位置把握】が強い魔力を探知した。
方向は花幻山の裏側だろう。勢いよくこちらに向かってきている。
ちゃんはちは剣を創り、そちらを見て睨みつける。
「…何があったのかしら?」
「何かが来てる。」
それはずんずんと進んできて、ついに姿が認識できる寸前のところまで来た。
ちゃんはちは地面を勢いよく蹴って空中に高く上がり、それに向かって剣を振り下げる。
__しかし、それが何か認識した瞬間、ちゃんはちは体勢を大きく崩して地面に向かって落ちていってしまった。
まふゆとしぜいやはそれを見て構えをとる。
だが、そんな二人もやってきた何かを見た瞬間、なにをやっているのだという目でそれを見つめた。
…迫ってきた何か。
それは、先ほどちゃんはちを閉じ込めた水の泡に入ったくいといかりだった。
いや、水の泡ではなく水の膜だろうか。中に水はないように見える。
「ふ、二人とも大丈夫〜!?」
「おお久しぶりだな!ごめんけどこの膜破れるか!?うちたちじゃ破れなくてよぉ!」
「斬れている感触はあるんだがな。それにこの膜、ただの水ではなく魔力によってある程度操作されているようでな。中に満ちていた水とは性質が違うようだ。」
「中に入ってた水は全部うちの炎で蒸発させたんだけどこの膜だけ無理だったんだ!」
「なるほどね。じゃあやるからそこから動かないでちょうだい。」
「わかった!頼むぜまふゆ!」
その声に応えるように、まふゆは自身の能力を使って水の膜を凍らせて粉砕。
中から出てきた二人は、伸びをしたり花幻山の新鮮な空気を吸い込んだりして体を慣らしている。
「いやぁ助かったぜ!ありがとよ!」
「とんでもないわ。それで、あなた達はなぜすぐに花幻山を降りて助けを呼びに行かなかったのかしら?」
「ん?あぁ、ついさっきまであの水の膜動かなかったんだよ。だから諦めて二人で水の膜を斬ったり炙ったりしてたんだけどな?さっき急に動くようになってさ。なんかよくわかんねぇけどとりあえず頂上目指そうってなって今ここに来たんだよ」
「どうやら私達は花幻湖付近に居たようだ。詳しくいうと、中枢郷側の中腹あたりだな。」
「おそらく水の膜が動いた起因はしずくの記憶の正常化でしょうね。」
「は?しずく?」
「詳しく説明するね」
一通りいかり側の事情を知ったまふゆとしぜいやは、こちら側のことについての説明を始めた。
この雨は異変であったこと。その原因がしずくであったこと。しかし、しずくは洗脳状態か何かに毒されており、洗脳?が解けた今、前後の記憶や感情の世界のことなどの記憶が大きく欠落していること。
二人が元々追っていた人については花韮が救出しに行ったこと。
そこまで話すと、いかりは眉間に寄せたシワを指で激しく揉んだ。
「…つまりなんだ?この異変には別の犯人がいるってことか?」
「しずくが嘘をついていないと仮定したらそうね。けれど、しずくの洗脳が解けたようなタイミングを見た私達は、しずくが嘘をついている可能性は限りなく低いと見ているわ。」
「とんでもなかったんだよ、しずくちゃんの慌てっぷり」
「…ともかく現状ではわからないことが多々あるが…。しずくはどこだ?」
「あっちで反動起こして寝ているわ。」
「あいつは寝るだけなのか。まぁ大きな隙ではあるがかなり軽いな。」
くいはまふゆの示した方向を見ながら呟く。
すると、後ろから先ほど落下したちゃんはちがおーいと言いながら戻ってきた。
その声に反応して皆はそちらを見る。
手を振りながら走るちゃんはち。その額から血が流れていた。
血はどくどくとちゃんはちの顔を撫でるように流れ顎に到達し、一つの雫となって落ちていく。
それを目の当たりにした皆は、平然としているちゃんはちをドン引きした顔をで見つめる。
「いやぁ二人とも!無事でよかったよ!」
「お前の額は無事じゃねぇけどな」
「は?何言ってんの?」
ちゃんはちは、いかりの発言に怪訝な顔をしながら言われた額を触る。
ぬるりとした感覚が手から脳に伝わった。
それと同時に、額から猛烈な激痛を感じる。
あ、これダメなやつだ。そう思った瞬間、視界が暗転して意識が飛ぶ。
ちゃんはちは急にぐらりと体を揺らして後ろに倒れる。
「ちゃんはち!」
その光景に唯一反応できたくいが、ちゃんはちの体を受け止める。
「出血がかなり酷いわね。いかり。しずくを持って。くいはちゃんはちをそのまま。」
「お、おうよ!」
「わ、私なにしたら…」
「しぜいやはむーに連絡してちょうだい。」
まふゆはそう言いながら手に魔力を込める。
すると、ちゃんはち達の家がある方向を見つめた。
「くい。家の方角はこっちであってるかしら?」
「あぁ。…って、お前何しようとして…」
「まぁ、見たらわかるわ。」
まふゆは、一歩前に踏み出すような動作をした。
すると、あたりの温度が一気に下がる。
降っていた雨が雪の粒へと変わり、それがまふゆを中心に風に煽られるようにしてぐるぐると回る。
まふゆは、息を大きく吸う。
「【雪の間《ゆきのま》】…!『氷雪・厚膜層《ひょうせつ・こうまくそう》』!!」
吸った息を全て吐くようにそう叫びながら、まふゆは勢いよく手を前に押し出す。
すると、猛吹雪の雪が全てまふゆの手に吸い込まれ、その手からちゃんはち達の家の方面までのぶ厚い氷の滑り台のような物が出来上がった。
【雪の間】。それは、まふゆの固有能力。
雨が降っている場合のみでしか発動できないが、条件が揃えば雨粒が雪となり、雪がまふゆを中心に大きく乱れて猛吹雪になるというもの。
平和系の固有能力と見られがちだが、部類的には戦闘系に分けられている。
「ほらくい。早く行きない!」
くいは、今さっきまでの出来事に驚くが、まふゆの早く行けという声に我に返り、その氷の滑り台に座る。
氷だと言うのに冷たくない。それに触れても溶けない。
驚くくいの後ろで、しずくをおぶったいかりが早く行けと怒鳴る。
しかし、珍しいことがあると自分の世界に入ってしまうくいにはその声が届いてなく。
我慢の限界に達したいかりに背中を思っきり蹴られ、くいは滑り台を転がるようにして滑っていったのだった。
