二人は異変解決へ行こうと玄関に行く。
靴を履いていざ出ようとしたタイミングで、むーが研究室から顔を出した。
「…貴方達。外に行くのならこれを使ってちょうだい。」
そう言って差し出した手には、液体の入った二つの小瓶が。
「んだ?それ」
「雨を防ぐ防水薬よ。試作段階だから豪雨へは対応していないけれど、これくらいの雨なら効き目は十分なはずね。」
「ふぅん。ちゃんと効くんだろうなぁ?まぁとりあえずもらっとくわ」
「…感謝する。」
いかりはむーの手から奪い取るように薬を取り、くいは少し遠慮がちに、手に触れないよう慎重に薬をもらう。
むーは伸ばしていた手を引っ込め、ポケットに入れる。
「予備も渡せるけれど、どうかしら。」
「いやいらねぇよ。別に人救ってくるだけだし」
「…その予備を使って研究を進めてくれ。」
「ならそうするわ。じゃあ気をつけて行ってきなさいよ。」
「うっせ。言われなくても気をつけるわ。行こうぜ」
「…行ってくる。」
いかりはくいの手を掴んで強引に引っ張りながら玄関の扉を開けた。
二人が向かえと依頼されたのは、花幻山の中腹あたり。
どうやら雨で地盤が緩んで土砂崩れが起こり、それに登山家が巻き込まれてしまったらしい。
試作段階の防水薬を体にかけた二人は、雨具を持たずに外へ出た。
「豪雨にはまだ対応してねぇっつってたけど、これくらいの雨ならどうってことねぇな」
「むーは素晴らしい薬師だな。」
「認めたくねぇけど認めるしかねぇんだよなぁ」
二人は雑談しながら、花幻山を目指して歩いていく。
数時間歩くと、花幻山の山麓に到着した。
二人は、上を見上げる。中腹といえど、まだまだ先は長そうだ。
パワーボールの操作に慣れていないため、いかり達はおとなしく岩肌を掴んで登っていく。
すると、巨大な岩石が二人のことを潰す勢いで降ってくる。
「げっ!」
いかりは手に魔力を込めようとする。
しかし、くいはそれよりも早く手に魔力を込めていた。
「いかりは下がれ。私が対処する。」
くいは岩肌を蹴り上げて刀を構える。
姿勢を低くして足に力を込めると、
「『和乱神風《わらんしんふう》』!」
そう言い、溜めていた足の力を一気に解放する。
岩肌を駆け上がり、岩石に急接近。
岩石が鼻先に触れるその瞬間、構えていた刀を下から上へ振り上げる。
岩石は真ん中で割れ、二人の進む道だけが綺麗に残る。
流麗で無駄のない一連の動きに、いかりは驚く。しかし、それと同時に対抗心が浮かび上がる。
感謝もありつつ不満をぶち撒けようとしたとき、くいは前を見つめながら叫ぶ。
「いかり!行き先を見ていてくれ!私はこの勢いに乗って岩を切る!」
「あああああ!クソが!!やってやるよ!完璧なナビゲーションしてやるよ!感謝しろよ!っておい!聞いてんのか!!うちがナビゲーションするっつってんだから置いてくなよクソ野郎がああああ!!!」
雨の降る花幻山に、いかりの怒号が淀みなく響き渡り。
__その声を聞いた者は、微かに微笑むのだった。
落石はくいが処理し、行き先はいかりが見る。
雨でも共同異変解決が初めてでも、たとえ気に食わなくても。異変解決のためには、力を合わせなくてはならない。
山麓は岩肌が多かったが、中腹からは緑が多くなり傾斜も緩やかになる。
比較的歩きやすいが、苔やら雑草やらが雨で濡れ、いつもより転びやすくなっている。
急斜の岩肌を抜けた二人は、緑豊かな中腹を歩く。
「うぉ!?」
早速転びそうになったいかりの手を、くいが掴む。
「危ないぞ。」
「…ありがとよ」
迷いながらも礼を言ったいかりは、辺りを見回す。
「土の匂いがしねぇな。土砂崩れが起こったのは花幻山のどの辺りなんだ?」
「待て。今調べる。」
くいは、情報共有機器に魔力を込める。
頭の中のさらに脳みその中。そこに存在する小さな小さな機器をイメージし、そこに魔力を込めていく。
すると、くいの目の前に液晶画面のようなものが浮かび上がった。
「ん?なんかフォント変わったか?」
「そうなのか?私はこれしか見ていないからわからない。」
「あ、そうかすまん」
「いやいい。気にするな。」
そう言いながら、くいは今回の件の依頼文章を探して手を置く。
「…南東地方の花幻郷側。向こうだな」
「げっ傾斜とはいえここを横断するのか?」
「滑らないように気をつければ済む。幸い落石があるのは山麓だけのようだ。安心して渡れる。行くぞ。」
「お、おい!!」
さっさと歩くくいの後ろを走るいかりは、足元に気をつけることなんてできず、くいに追いついたと思ったらすっ転んでしまった。
雨に濡れた緑の香りを嗅ぎながら、二人は花幻山を突き進む。
何事もなく目的地に到着すると、ガラにもなく油断し切っていた。
__そのとき。
急に雨が弾丸になったかように激しくなる。
「ッチ!走るぞ!」
「やむを得ん。承知した。」
二人は豪雨の中、花幻山を走る。
雨が強過ぎて前が見えない。しかし、それよりもむーの防水薬が切れてしまった。
瞬間、二人は雨に打たれてずぶ濡れになってしまう。
それでも先へと、足を止めることなく走り続けた。
それが、突如として、まるで時が止まったかのように豪雨がぴたりと"止まる"。
見えない視界はそのままだが。
二人は足を止めて、状況を把握しようとする。
「…どういうことだ。」
「お前がわからないならうちに聞かれてもわかんねぇよ」
「それもそうだな。すまない。」
「あ"!?」
怒るいかりを無視して、くいはこの現象のことを調べる。
と言っても、止まっている雨に触れるくらいしかできないが。
(…触れると雫に戻る。結晶化はしていないな。水滴に戻るのなら時は止まっていないのか?それも不確定だ。)
くいは指先についた雨を見つめる。
注意深く観察していると。
__指先についた雫から、微量の魔力を検知した。
「なっ」
それに気づいたのほぼ同時に、辺りにある雫一つ一つに魔力が込められる。
「いかり!にげ__!」
その叫び声を掻き消すように、雨は二人に向かって激しく降り注いでいく。
数分にも続いたその雨は徐々に静けさを取り戻し、やがて小雨程度へと降水量を戻す。
二人がいた場所は、巨大なクレーターができた以外なにも残っていなかった。
__まるで、元々二人はいなかったかのように。
靴を履いていざ出ようとしたタイミングで、むーが研究室から顔を出した。
「…貴方達。外に行くのならこれを使ってちょうだい。」
そう言って差し出した手には、液体の入った二つの小瓶が。
「んだ?それ」
「雨を防ぐ防水薬よ。試作段階だから豪雨へは対応していないけれど、これくらいの雨なら効き目は十分なはずね。」
「ふぅん。ちゃんと効くんだろうなぁ?まぁとりあえずもらっとくわ」
「…感謝する。」
いかりはむーの手から奪い取るように薬を取り、くいは少し遠慮がちに、手に触れないよう慎重に薬をもらう。
むーは伸ばしていた手を引っ込め、ポケットに入れる。
「予備も渡せるけれど、どうかしら。」
「いやいらねぇよ。別に人救ってくるだけだし」
「…その予備を使って研究を進めてくれ。」
「ならそうするわ。じゃあ気をつけて行ってきなさいよ。」
「うっせ。言われなくても気をつけるわ。行こうぜ」
「…行ってくる。」
いかりはくいの手を掴んで強引に引っ張りながら玄関の扉を開けた。
二人が向かえと依頼されたのは、花幻山の中腹あたり。
どうやら雨で地盤が緩んで土砂崩れが起こり、それに登山家が巻き込まれてしまったらしい。
試作段階の防水薬を体にかけた二人は、雨具を持たずに外へ出た。
「豪雨にはまだ対応してねぇっつってたけど、これくらいの雨ならどうってことねぇな」
「むーは素晴らしい薬師だな。」
「認めたくねぇけど認めるしかねぇんだよなぁ」
二人は雑談しながら、花幻山を目指して歩いていく。
数時間歩くと、花幻山の山麓に到着した。
二人は、上を見上げる。中腹といえど、まだまだ先は長そうだ。
パワーボールの操作に慣れていないため、いかり達はおとなしく岩肌を掴んで登っていく。
すると、巨大な岩石が二人のことを潰す勢いで降ってくる。
「げっ!」
いかりは手に魔力を込めようとする。
しかし、くいはそれよりも早く手に魔力を込めていた。
「いかりは下がれ。私が対処する。」
くいは岩肌を蹴り上げて刀を構える。
姿勢を低くして足に力を込めると、
「『和乱神風《わらんしんふう》』!」
そう言い、溜めていた足の力を一気に解放する。
岩肌を駆け上がり、岩石に急接近。
岩石が鼻先に触れるその瞬間、構えていた刀を下から上へ振り上げる。
岩石は真ん中で割れ、二人の進む道だけが綺麗に残る。
流麗で無駄のない一連の動きに、いかりは驚く。しかし、それと同時に対抗心が浮かび上がる。
感謝もありつつ不満をぶち撒けようとしたとき、くいは前を見つめながら叫ぶ。
「いかり!行き先を見ていてくれ!私はこの勢いに乗って岩を切る!」
「あああああ!クソが!!やってやるよ!完璧なナビゲーションしてやるよ!感謝しろよ!っておい!聞いてんのか!!うちがナビゲーションするっつってんだから置いてくなよクソ野郎がああああ!!!」
雨の降る花幻山に、いかりの怒号が淀みなく響き渡り。
__その声を聞いた者は、微かに微笑むのだった。
落石はくいが処理し、行き先はいかりが見る。
雨でも共同異変解決が初めてでも、たとえ気に食わなくても。異変解決のためには、力を合わせなくてはならない。
山麓は岩肌が多かったが、中腹からは緑が多くなり傾斜も緩やかになる。
比較的歩きやすいが、苔やら雑草やらが雨で濡れ、いつもより転びやすくなっている。
急斜の岩肌を抜けた二人は、緑豊かな中腹を歩く。
「うぉ!?」
早速転びそうになったいかりの手を、くいが掴む。
「危ないぞ。」
「…ありがとよ」
迷いながらも礼を言ったいかりは、辺りを見回す。
「土の匂いがしねぇな。土砂崩れが起こったのは花幻山のどの辺りなんだ?」
「待て。今調べる。」
くいは、情報共有機器に魔力を込める。
頭の中のさらに脳みその中。そこに存在する小さな小さな機器をイメージし、そこに魔力を込めていく。
すると、くいの目の前に液晶画面のようなものが浮かび上がった。
「ん?なんかフォント変わったか?」
「そうなのか?私はこれしか見ていないからわからない。」
「あ、そうかすまん」
「いやいい。気にするな。」
そう言いながら、くいは今回の件の依頼文章を探して手を置く。
「…南東地方の花幻郷側。向こうだな」
「げっ傾斜とはいえここを横断するのか?」
「滑らないように気をつければ済む。幸い落石があるのは山麓だけのようだ。安心して渡れる。行くぞ。」
「お、おい!!」
さっさと歩くくいの後ろを走るいかりは、足元に気をつけることなんてできず、くいに追いついたと思ったらすっ転んでしまった。
雨に濡れた緑の香りを嗅ぎながら、二人は花幻山を突き進む。
何事もなく目的地に到着すると、ガラにもなく油断し切っていた。
__そのとき。
急に雨が弾丸になったかように激しくなる。
「ッチ!走るぞ!」
「やむを得ん。承知した。」
二人は豪雨の中、花幻山を走る。
雨が強過ぎて前が見えない。しかし、それよりもむーの防水薬が切れてしまった。
瞬間、二人は雨に打たれてずぶ濡れになってしまう。
それでも先へと、足を止めることなく走り続けた。
それが、突如として、まるで時が止まったかのように豪雨がぴたりと"止まる"。
見えない視界はそのままだが。
二人は足を止めて、状況を把握しようとする。
「…どういうことだ。」
「お前がわからないならうちに聞かれてもわかんねぇよ」
「それもそうだな。すまない。」
「あ"!?」
怒るいかりを無視して、くいはこの現象のことを調べる。
と言っても、止まっている雨に触れるくらいしかできないが。
(…触れると雫に戻る。結晶化はしていないな。水滴に戻るのなら時は止まっていないのか?それも不確定だ。)
くいは指先についた雨を見つめる。
注意深く観察していると。
__指先についた雫から、微量の魔力を検知した。
「なっ」
それに気づいたのほぼ同時に、辺りにある雫一つ一つに魔力が込められる。
「いかり!にげ__!」
その叫び声を掻き消すように、雨は二人に向かって激しく降り注いでいく。
数分にも続いたその雨は徐々に静けさを取り戻し、やがて小雨程度へと降水量を戻す。
二人がいた場所は、巨大なクレーターができた以外なにも残っていなかった。
__まるで、元々二人はいなかったかのように。
