ちゃんはちは家に戻ると、早速キットを使って別館をつくりあげる。
小型のそれは、起動するとちゃんはち達の家の二倍もの大きさの別館を作り上げてしまった。
大きすぎる別館だが、ちゃんはちたちの家は木々の中に取り残されたようになっている。
元の敷地を広めに取っておいたおかげで、周りの木々に支障はないように見える。
ちゃんはちは自身の手のひらサイズだったものからこれが出てくるとは思わず、何度も手のひらと別館を見比べてしまう。
皆がびっくりする中、花韮は感心したように手を叩く。
「これは博士の作ったものか?なんともまぁ、素晴らしいものだな。」
「…その博士に、礼を言っておいてくれ。」
「わかったよ。まぁまた会う機会があればだけどね」
ちゃんはちはそう言いながら、別館の中に入ろうとする。
が、肝心の入り口がない。
「あれ?なんでだ?」
「見ろ。お前らの家に繋がる渡り廊下のようなものができている。」
花韮に言われて見上げると、家のリビングがある場所の真反対から別館にかけて、壁のようなものが出来上がっている。
定かでないが、おそらく花韮の言った通り渡り廊下のような役割を果たすだろう。
「えぇ!?博士すごすぎじゃね!?」
「ここまで想定しているとなると流石に驚くな。計算され尽くした設計。まるでちゃんはちがキットを使用する場所まで知り尽くしているようだ。」
博士おっかねーと、いかりは呟く。
「…一旦置いておこう。ちゃんはち。すこし提案したいことがある。」
「え?なになになにさ」
「花韮丘の近くに、人里を建てようかと思ってな。」
「は!?いきなり!?」
「この別館は、もともと冒険者を招くようにと思っていたのだがな。それならいっそ、人里を建てようかと。花幻郷には人里があるにはあるが、お前達の管理下に置いた方が安全だろう。それに…」
花韮は組んでいた腕を解いて、人差し指をたてる。
「もしかしたらお前の大好きな限定クッキーの売店も、これから作る人里に店を移すかもしれないぞ?」
「よし。人里育成計画開始だ!!!」
「人里は育成しねぇだろバカかよ」
そんなこんなで、ちゃんはち達の人里建設計画は始まった。
設計図の作成から動いたそれは、数ヶ月の間に家を建てるために木を切るまでになった。
人里育成計画という意味のわからない計画。そんな幻想が、徐々に現実になりつつある。
十一ヶ月過ぎて翌年の六月に差し掛かるころになると、家を建てる係と木を切る係、計画に不備がないか確認する係に分かれた。
提案者の花韮は、あの後すぐにフラッとどこかに出掛けた。
数日前に様子見に帰ってきて、「また様子を見にくる」と言った花韮の手をちゃんはちが掴んで人里育成計画に巻き込んでいった。
そんなこんなで計画が順調に進んでいたある日。
ちゃんはちはいつものムシムシした暑さに汗を垂らしながら、木材に釘を打ち付ける。
「ふーっ」
汗を拭いながらそう息を吐くちゃんはちに、やみとひかりが声をかけた。
「ちゃんはち。帰ったわ。」
「ただいまー!あっ花韮さんもいるんですね!」
「おーおかえり!意外と早かったねぇ。花韮は二人が遠征に行った次の日に帰ってきたんだよ」
「あらそうなの。タイミングが悪かったのね。」
二人は、少し前から話題となっているローブを纏った変質者を追いに遠征へと向かったが、結局なにも情報を得られる事なく終わってしまったらしい。
こうなることは滅多にないが、なくはない。
再度遠征を依頼されてまた誰かが行き、それでも解決しなかったらちゃんはちが出ようとなっている。
そんなことはさておき、やみはしゃがんでいるちゃんはちに向かって質問を投げかける。
「で、人里建築計画は順調かしら。」
「うん!今のところ…」
質問に言葉を返そうとしたそのとき。
ちゃんはちの真隣に巨大な木がぶっ刺さる。
驚きで声が出ない三人に向かって上空から声が降ってくる。
「おら!木ィ持ってきたぞ!!」
「言うのがおっせぇんだ!言うのが!危ないじゃんか!!あと一ミリでもずれてたら私ぺちゃんこだったんだよ!?」
パワーボールに乗ったいかりに届くようにちゃんはちは声を張り叫ぶ。
「おいお前ら!ごちゃごちゃ言う前に動け!一人でテキパキ働いているくいの身にもなってみろ!!」
遠くから四人を叱責する声が聞こえる。花韮の声だ。
言われた四人は振り向くと、一人でコツコツと木材に釘を打っているくいがいた。
見られていると気づいたくいは、四人をちらりと見たのち再度釘を打つ。
「やれと言われたことだけやっているだけだ。誰でもやれることだろう。」
「はぁ?」
パワーボールから降りようと高度を下げたいかりは、その声に青筋を浮かべる。
「なに済ました顔で言ってんだよお前。もしかして自分がかっこいいとでもおもっ__」
「そんな訳ないだろう。こんな私を拾ってくれた、ちゃんはちたちに恩を返してるだけだ。」
「…」
「もちろんお前も入ってるぞ、いかり。そうカリカリするな。」
「なっ」
褒められたいかりは、鼻を膨らませて恥じらったような顔をしてしまう。
「はいはい。じゃーいかりちゃんには木の皮剥ぎお願いしようかな」
「…わかったよ」
お願いされたいかりは、おとなしく木の皮を剥ぎに行く。
それを見たくいは、近くにいる花韮に声をかける。
「…賑やかだな。」
「あぁ。こいつらはいつもこんな調子だ。もう困ってしまうほど賑やかだぞ。」
「でも、それが良いな。」
「…だな。」
花韮は、四人を見つめながらしんみりしたように呟く。
それを見たくいは、自身の手元にある木材に目線をやる。
「…なんか、すまんな。いろいろ。」
「なにがだ?」
「…初対面であれは、少しやりすぎた。」
「戦いなんて、全部あんな感じだ。もう慣れっこなんだよ。」
「…戦いしか知らないくせにな。」
「愚か者で悪かったな。愚か者で。」
自虐のようにそう返す花韮に、くいは笑みを浮かべる。
花韮はくいのそんな様子を見て、ガラにもないやうな和かな笑みを浮かべた。
「…フッ。これからが楽しみだな。」
「なんだ、急に。」
「言葉の通りだよ。」
花韮は一呼吸置いた後、青空を見上げて明るい未来を描く様につぶやく。
「お前らの。__煙花散花の、これからが。」
その言葉に、くいの表情は少し曇る。
「…私は、煙花散花に影響をもたらすほど強くはない。」
「そう思うか?」
「…なにかあるなら素直に言え。」
「…」
言葉を発しようと喉を震わせようとするその瞬間。
急に暗雲が空を覆い太陽を隠す。
まるで図ったかのような、神様が仕組んだような。そんなタイミングで雨が降り出した。
最初の数秒は霧雨程度だったが、それから雨足は勢いを増し、数十秒で滝のような雨に様変わりする。
「…雨か。」
「みんな!作業は一旦終わり!雨宿りしよう!」
ちゃんはちのその掛け声は、ほぼ当たり前になってきていた。
皆は急いで家へと足を進める。
家で昼食を作っていたやさは、雨に気づいて玄関まで皆を迎えにきてくれた。手には人数分のタオルを持っている。
「み、みんな!雨大丈夫!?」
「大丈夫よ。この季節だから雨が降るのは仕方ないけれど、何か対策しないとダメそうね。」
「まぁむーちゃんの薬が完成したらきっと作業も楽になるから!」
ちゃんはちはタオルを受け取ってみんなに配っていく。
いかりはあの一瞬で濡れた髪にタオルを当てながら誰かに当たるように呟く。
「クソが。癖っ毛のうちにとって梅雨が1番の天敵なんだよ。あーあ、この梅雨が早く去ってくれるとありがたいんだけどなぁ」
その呟きを、みんなは黙って聞く。
それに気づいたいかりは、目線を上げて辺りを見回して叫ぶ。
「…ってか、なんでみんなそんなにサラサラヘアーなんだよ!キレるぞ!!!」
「もうキレてるでしょう。」
玄関の騒がしい声に鬱陶しさを感じたのか、階段下にある扉からむーが出てくる。
そもそも一階には玄関と階段、研究室、お風呂とトイレと言う順番で建てられている。
お風呂とトイレがリビングの下側にあることから、今までは外から歩いて行かなければならなかったが、別館の渡り廊下ができたことで、別館から一階に降りてお風呂場やトイレに行くことが可能になったのだ。
そんな研究室から出てきたむーの髪の毛をいかりはじっと見つめる。
するといきなり目が吊り上がる。
「うっせぇな!髪の毛むしり取んぞテメェ!」
「はいはい。不可能なことをさもできるかのように口走らないことね。」
「てんめっ!!」
いかりはむーに向かって突っ込み、本当に髪の毛を狙いにいく。
右のこめかみに手が伸びる。
むーは冷静に手で左側に髪の毛をまとめ、もう片方の手でいかりの手首を掴む。
まさかむーが本気で抵抗してくるとは思わず、いかりは無言で目線を下にする。
「ふ、二人とも喧嘩しないで!」
やさがそう叫ぶと、いかりは伸ばしていた手の力を緩める。
むーはその様子を見て手を下げる。
「…悪かったな」
「あら。珍しく素直に引くのね。」
「あ"!?」
そんな二人の絡みが退屈なのか、花韮はタオルで髪を拭きながら、窓に寄りかかり外を眺める。
「花韮、雨は嫌いか?」
花韮に話しかけたのは、これまた二人の絡みが退屈そうなくい。
話しかけられた花韮は、くいに目線をやる。
「いいや?全く。逆に私は大好きだ。」
そう言うと、花韮は再度外の雨を見つめる。
「だが__」
言いかけたその言葉を飲み込むように、花韮は外の雨粒を見つめるのだった。
__時は巡り、七月になる。
それなのにもかかわらず、断続的な雨は続いていた。
小型のそれは、起動するとちゃんはち達の家の二倍もの大きさの別館を作り上げてしまった。
大きすぎる別館だが、ちゃんはちたちの家は木々の中に取り残されたようになっている。
元の敷地を広めに取っておいたおかげで、周りの木々に支障はないように見える。
ちゃんはちは自身の手のひらサイズだったものからこれが出てくるとは思わず、何度も手のひらと別館を見比べてしまう。
皆がびっくりする中、花韮は感心したように手を叩く。
「これは博士の作ったものか?なんともまぁ、素晴らしいものだな。」
「…その博士に、礼を言っておいてくれ。」
「わかったよ。まぁまた会う機会があればだけどね」
ちゃんはちはそう言いながら、別館の中に入ろうとする。
が、肝心の入り口がない。
「あれ?なんでだ?」
「見ろ。お前らの家に繋がる渡り廊下のようなものができている。」
花韮に言われて見上げると、家のリビングがある場所の真反対から別館にかけて、壁のようなものが出来上がっている。
定かでないが、おそらく花韮の言った通り渡り廊下のような役割を果たすだろう。
「えぇ!?博士すごすぎじゃね!?」
「ここまで想定しているとなると流石に驚くな。計算され尽くした設計。まるでちゃんはちがキットを使用する場所まで知り尽くしているようだ。」
博士おっかねーと、いかりは呟く。
「…一旦置いておこう。ちゃんはち。すこし提案したいことがある。」
「え?なになになにさ」
「花韮丘の近くに、人里を建てようかと思ってな。」
「は!?いきなり!?」
「この別館は、もともと冒険者を招くようにと思っていたのだがな。それならいっそ、人里を建てようかと。花幻郷には人里があるにはあるが、お前達の管理下に置いた方が安全だろう。それに…」
花韮は組んでいた腕を解いて、人差し指をたてる。
「もしかしたらお前の大好きな限定クッキーの売店も、これから作る人里に店を移すかもしれないぞ?」
「よし。人里育成計画開始だ!!!」
「人里は育成しねぇだろバカかよ」
そんなこんなで、ちゃんはち達の人里建設計画は始まった。
設計図の作成から動いたそれは、数ヶ月の間に家を建てるために木を切るまでになった。
人里育成計画という意味のわからない計画。そんな幻想が、徐々に現実になりつつある。
十一ヶ月過ぎて翌年の六月に差し掛かるころになると、家を建てる係と木を切る係、計画に不備がないか確認する係に分かれた。
提案者の花韮は、あの後すぐにフラッとどこかに出掛けた。
数日前に様子見に帰ってきて、「また様子を見にくる」と言った花韮の手をちゃんはちが掴んで人里育成計画に巻き込んでいった。
そんなこんなで計画が順調に進んでいたある日。
ちゃんはちはいつものムシムシした暑さに汗を垂らしながら、木材に釘を打ち付ける。
「ふーっ」
汗を拭いながらそう息を吐くちゃんはちに、やみとひかりが声をかけた。
「ちゃんはち。帰ったわ。」
「ただいまー!あっ花韮さんもいるんですね!」
「おーおかえり!意外と早かったねぇ。花韮は二人が遠征に行った次の日に帰ってきたんだよ」
「あらそうなの。タイミングが悪かったのね。」
二人は、少し前から話題となっているローブを纏った変質者を追いに遠征へと向かったが、結局なにも情報を得られる事なく終わってしまったらしい。
こうなることは滅多にないが、なくはない。
再度遠征を依頼されてまた誰かが行き、それでも解決しなかったらちゃんはちが出ようとなっている。
そんなことはさておき、やみはしゃがんでいるちゃんはちに向かって質問を投げかける。
「で、人里建築計画は順調かしら。」
「うん!今のところ…」
質問に言葉を返そうとしたそのとき。
ちゃんはちの真隣に巨大な木がぶっ刺さる。
驚きで声が出ない三人に向かって上空から声が降ってくる。
「おら!木ィ持ってきたぞ!!」
「言うのがおっせぇんだ!言うのが!危ないじゃんか!!あと一ミリでもずれてたら私ぺちゃんこだったんだよ!?」
パワーボールに乗ったいかりに届くようにちゃんはちは声を張り叫ぶ。
「おいお前ら!ごちゃごちゃ言う前に動け!一人でテキパキ働いているくいの身にもなってみろ!!」
遠くから四人を叱責する声が聞こえる。花韮の声だ。
言われた四人は振り向くと、一人でコツコツと木材に釘を打っているくいがいた。
見られていると気づいたくいは、四人をちらりと見たのち再度釘を打つ。
「やれと言われたことだけやっているだけだ。誰でもやれることだろう。」
「はぁ?」
パワーボールから降りようと高度を下げたいかりは、その声に青筋を浮かべる。
「なに済ました顔で言ってんだよお前。もしかして自分がかっこいいとでもおもっ__」
「そんな訳ないだろう。こんな私を拾ってくれた、ちゃんはちたちに恩を返してるだけだ。」
「…」
「もちろんお前も入ってるぞ、いかり。そうカリカリするな。」
「なっ」
褒められたいかりは、鼻を膨らませて恥じらったような顔をしてしまう。
「はいはい。じゃーいかりちゃんには木の皮剥ぎお願いしようかな」
「…わかったよ」
お願いされたいかりは、おとなしく木の皮を剥ぎに行く。
それを見たくいは、近くにいる花韮に声をかける。
「…賑やかだな。」
「あぁ。こいつらはいつもこんな調子だ。もう困ってしまうほど賑やかだぞ。」
「でも、それが良いな。」
「…だな。」
花韮は、四人を見つめながらしんみりしたように呟く。
それを見たくいは、自身の手元にある木材に目線をやる。
「…なんか、すまんな。いろいろ。」
「なにがだ?」
「…初対面であれは、少しやりすぎた。」
「戦いなんて、全部あんな感じだ。もう慣れっこなんだよ。」
「…戦いしか知らないくせにな。」
「愚か者で悪かったな。愚か者で。」
自虐のようにそう返す花韮に、くいは笑みを浮かべる。
花韮はくいのそんな様子を見て、ガラにもないやうな和かな笑みを浮かべた。
「…フッ。これからが楽しみだな。」
「なんだ、急に。」
「言葉の通りだよ。」
花韮は一呼吸置いた後、青空を見上げて明るい未来を描く様につぶやく。
「お前らの。__煙花散花の、これからが。」
その言葉に、くいの表情は少し曇る。
「…私は、煙花散花に影響をもたらすほど強くはない。」
「そう思うか?」
「…なにかあるなら素直に言え。」
「…」
言葉を発しようと喉を震わせようとするその瞬間。
急に暗雲が空を覆い太陽を隠す。
まるで図ったかのような、神様が仕組んだような。そんなタイミングで雨が降り出した。
最初の数秒は霧雨程度だったが、それから雨足は勢いを増し、数十秒で滝のような雨に様変わりする。
「…雨か。」
「みんな!作業は一旦終わり!雨宿りしよう!」
ちゃんはちのその掛け声は、ほぼ当たり前になってきていた。
皆は急いで家へと足を進める。
家で昼食を作っていたやさは、雨に気づいて玄関まで皆を迎えにきてくれた。手には人数分のタオルを持っている。
「み、みんな!雨大丈夫!?」
「大丈夫よ。この季節だから雨が降るのは仕方ないけれど、何か対策しないとダメそうね。」
「まぁむーちゃんの薬が完成したらきっと作業も楽になるから!」
ちゃんはちはタオルを受け取ってみんなに配っていく。
いかりはあの一瞬で濡れた髪にタオルを当てながら誰かに当たるように呟く。
「クソが。癖っ毛のうちにとって梅雨が1番の天敵なんだよ。あーあ、この梅雨が早く去ってくれるとありがたいんだけどなぁ」
その呟きを、みんなは黙って聞く。
それに気づいたいかりは、目線を上げて辺りを見回して叫ぶ。
「…ってか、なんでみんなそんなにサラサラヘアーなんだよ!キレるぞ!!!」
「もうキレてるでしょう。」
玄関の騒がしい声に鬱陶しさを感じたのか、階段下にある扉からむーが出てくる。
そもそも一階には玄関と階段、研究室、お風呂とトイレと言う順番で建てられている。
お風呂とトイレがリビングの下側にあることから、今までは外から歩いて行かなければならなかったが、別館の渡り廊下ができたことで、別館から一階に降りてお風呂場やトイレに行くことが可能になったのだ。
そんな研究室から出てきたむーの髪の毛をいかりはじっと見つめる。
するといきなり目が吊り上がる。
「うっせぇな!髪の毛むしり取んぞテメェ!」
「はいはい。不可能なことをさもできるかのように口走らないことね。」
「てんめっ!!」
いかりはむーに向かって突っ込み、本当に髪の毛を狙いにいく。
右のこめかみに手が伸びる。
むーは冷静に手で左側に髪の毛をまとめ、もう片方の手でいかりの手首を掴む。
まさかむーが本気で抵抗してくるとは思わず、いかりは無言で目線を下にする。
「ふ、二人とも喧嘩しないで!」
やさがそう叫ぶと、いかりは伸ばしていた手の力を緩める。
むーはその様子を見て手を下げる。
「…悪かったな」
「あら。珍しく素直に引くのね。」
「あ"!?」
そんな二人の絡みが退屈なのか、花韮はタオルで髪を拭きながら、窓に寄りかかり外を眺める。
「花韮、雨は嫌いか?」
花韮に話しかけたのは、これまた二人の絡みが退屈そうなくい。
話しかけられた花韮は、くいに目線をやる。
「いいや?全く。逆に私は大好きだ。」
そう言うと、花韮は再度外の雨を見つめる。
「だが__」
言いかけたその言葉を飲み込むように、花韮は外の雨粒を見つめるのだった。
__時は巡り、七月になる。
それなのにもかかわらず、断続的な雨は続いていた。
