翌日のお昼頃。
ちゃんはちは、またしても扉のノック音で目覚める。
体を起こすと、いつもは体にかかっているはずの薄い毛布はなかった。
(…そういや毛布かけずに寝落ちしたんだった…)
ボサボサの頭を掻きながら、ちゃんはちはそう思う。
体が酷くだるい。お腹が空いた。そういえばお風呂にも入っていない。
「はぁぁぁぁ…」
「なんだ。起きているじゃないか。」
「は?」
扉の開く音と共に、ちゃんはちの耳に花韮の声が聞こえた。
ちゃんはちは花韮を二度見して、口をゆっくりと動かす。
「…ふ…」
「ふ?」
「不法侵入ううううう!!!!!!!!」
絶叫するちゃんはちの声は、家の外にまで響き渡った。
「…勝手に入ったことに対しては、悪いとは思っている。だが…。少し…いや、かなりやりすぎではないか?」
リビングのソファに座る花韮は、別人のようなしおらしい態度でそう呟く。
そのしょげた顔の額には、花韮の美しい顔に似つかわしくないような、大きいたんこぶができていた。
「…いや…うん…ごめんて」
隣に座るちゃんはちは、気まずそうに呟く。
あの後、ちゃんはちはパニックになり、近くに飾ってあった、ピンク色に咲き誇るローダンセの入っている花瓶を手に取り、花韮に投げつけてしまった。
顔面に向かって正確に投げつけられたそれを、花韮は回避しようとする。
しかし、まさか寝起きの仲間にこんな仕打ちをされるとは思わず、判断が鈍ってしまった花韮は花瓶を避け切ることができなかった。
結果的に、花瓶は花韮の額に直撃。その衝撃で花瓶は粉々に砕け散り部屋に散乱。
そこでようやく、ちゃんはちは目の前にいるのが花韮だということを思い出したのだった。
一連の流れを思い出すと、ちゃんはちは苦笑いをしてしまう。
パニックになったとはいえ、師匠に一発カマしてしまうとは…。
リビングにいたやみ、ひかり、くいは、ちゃんはちの絶叫と行いに呆れを通り越して笑いしか出てこない。
微妙な空気が流れるリビングに、むーといかりが合流してくる。
ちゃんはちの絶叫と何かが割れる音しか聞いていない二人は、花韮の顔を見てギョッとしてしまう。
「…何があったのか説明をちょうだい。」
むーは、花韮のたんこぶを見つめながら真顔で問う。
「…私が花韮に花瓶を投げつけました」
「いや、その前に私が部屋に入ったのが悪い。返事がなく心配だったとはいえ、勝手に人の部屋にずけずけと侵入するのはどうかと思う。すまなかった。」
「はい。回復薬よ。」
事情を察したむーは、自身のポケットから回復薬を取り出し、それを花韮に渡す。
花韮はそれを受け取り、瓶を開けて中に入っている液体をたんこぶにかける。
すると、腫れは瞬時に引いていった。
「…すまない。」
「いいわよ別に。…で、ちゃんはち。」
むーは、反省してしおらしくなってしまった花韮を見て見ぬふりしながらちゃんはちの名を呼ぶ。
呼ばれたちゃんはちは、姿勢を正す。
「はいなんでございましょう。」
「別に怒らないわよ。はい。」
そう言われてばさっと渡されたのは、様々な薬品のデータが記された資料たち。手書きのようで、とても綺麗な字ではあるが、使われている用語が難しすぎてどんなことが記されているのかわからない。
その資料の下には、花韮が持っていった仕事の資料が数枚混ざっていた。
目視できるだけで二十枚はある資料の束に、てっきり怒られると思っていたちゃんはちは驚く。
「…これ…」
「私の研究のデータ。それと、花韮からもらった仕事の資料。後で確認してちょうだい。」
「それなら私からも渡すものがあるわ。」
やみはそういいながら自身の左隣に置いてあった資料の束を両手で手渡ししてくる。
「はい。みんなでやった仕事の資料よ。」
「え、この量を一夜で!?」
「人は多い方が効率的なのよ。仲間というものにトラウマがあるのは私がよく知っているわ。けれど、それでも私達は仲間なの。仲間とは、互いに協力し合い、嬉しさも悲しさも共有していくもの。…どう、少しは楽になれたんじゃないかしら。」
「そもそもお前は仲間というものを湾曲して理解してんだよ。裏切って嘲笑って無視する奴らなんて仲間とは言えない」
ちゃんはちは、話してくれた二人を見つめた後、どこかを見つめる。
__私達仲間じゃん。
__なんで従わないんだよ。俺たち仲間だよな?
__仲間の私のこと、信用できないの?
かつて言われた言葉の羅列。
圧迫された意味のない言葉が、ちゃんはちの脳の中に直接、湯水の如く湧き出てくる。
__仲間が言ってんだからやれよ
__私達、仲間じゃないの…?
仲間という都合のいい言葉を並べて自由を縛り操り人形のように操作された、あの日常が。
ひどく鮮明に、残酷に、思い出される。
…私が仲間という言葉に、どれだけ騙されたことか。
正直、仲間という単語が大嫌いだ。
都合のいいときだけ仲間ズラして、飽きられたらまるで使い捨て容器のように捨てられる。
この世界に来て、もう仲間は作らないと割り切っていた。
けれど。
この世界に来たちゃんはちを助けてくれ、ここまで見守ってくれた太陽のような花韮とハーデンが、頭から離れない。
おそらく二人は、仲間というちゃっちい言葉じゃ表せない特別ななにかで固く結ばれている。
なのに、そう思ったというのに、それでも。
それでも、仲間というものに希望を抱いた。
誰とでもいいから、あの二人のように誰かと仲間になってみたい。
そう考えてしまって、ちゃんはちは、また仲間というものを作ってしまった。
孤独は嫌いだ。しかし、私は一人が好きだ。
みんなと過ごすこの世も好きだ。
矛盾を抱えているのが、たまらなく辛い。
(楽になりたかったのに、結局辛いんじゃないか。)
だから。
だから、どちらかに振り切る。
ちゃんはちは、仲間と共に生きていくことを決断したんだ。
どちらであることが辛いのなら、どちらに振り切ったほうが、楽しくて楽なのは間違いないだろう。
「…そうだね。ありがとう。二人とも」
にっこり笑うその姿に、やみといかりを始めとした感情達が穏やかな表情をする。
「じゃあ私、博士からくいちゃん用の情報共有機器をもらってくるよ」
「その前に、少し言いたいことがある。」
ちゃんはちが席を立とうとしたとき、花韮は口を突っ込む。
皆の話を傍観してる間にすっかり調子が戻ったらしい。いつものように腕を組み、悪態をつきながら話し出す。
「くいの寝る場所がない。それに客間もほしいと思っている。その博士とやらに仮設住宅でもなんでもいいから家になりそうなものをもらってきてくれ。」
「え、家をもう一個作るの!?」
「正確には別館だな。冒険者も招けるような大きなもの。」
「そんなんあるかな…ま、一応聞いてみるね」
「…すまんな。」
立ち上がるちゃんはちに向かって、くいが申し訳なさそうにいう。
「いやいいよ!じゃあ行ってくるね」
「はっちゃん!行ってらっしゃい!!」
ひかりの明るい声を聞きながら、ちゃんはちは家を後にした。
ちゃんはちは、またしても扉のノック音で目覚める。
体を起こすと、いつもは体にかかっているはずの薄い毛布はなかった。
(…そういや毛布かけずに寝落ちしたんだった…)
ボサボサの頭を掻きながら、ちゃんはちはそう思う。
体が酷くだるい。お腹が空いた。そういえばお風呂にも入っていない。
「はぁぁぁぁ…」
「なんだ。起きているじゃないか。」
「は?」
扉の開く音と共に、ちゃんはちの耳に花韮の声が聞こえた。
ちゃんはちは花韮を二度見して、口をゆっくりと動かす。
「…ふ…」
「ふ?」
「不法侵入ううううう!!!!!!!!」
絶叫するちゃんはちの声は、家の外にまで響き渡った。
「…勝手に入ったことに対しては、悪いとは思っている。だが…。少し…いや、かなりやりすぎではないか?」
リビングのソファに座る花韮は、別人のようなしおらしい態度でそう呟く。
そのしょげた顔の額には、花韮の美しい顔に似つかわしくないような、大きいたんこぶができていた。
「…いや…うん…ごめんて」
隣に座るちゃんはちは、気まずそうに呟く。
あの後、ちゃんはちはパニックになり、近くに飾ってあった、ピンク色に咲き誇るローダンセの入っている花瓶を手に取り、花韮に投げつけてしまった。
顔面に向かって正確に投げつけられたそれを、花韮は回避しようとする。
しかし、まさか寝起きの仲間にこんな仕打ちをされるとは思わず、判断が鈍ってしまった花韮は花瓶を避け切ることができなかった。
結果的に、花瓶は花韮の額に直撃。その衝撃で花瓶は粉々に砕け散り部屋に散乱。
そこでようやく、ちゃんはちは目の前にいるのが花韮だということを思い出したのだった。
一連の流れを思い出すと、ちゃんはちは苦笑いをしてしまう。
パニックになったとはいえ、師匠に一発カマしてしまうとは…。
リビングにいたやみ、ひかり、くいは、ちゃんはちの絶叫と行いに呆れを通り越して笑いしか出てこない。
微妙な空気が流れるリビングに、むーといかりが合流してくる。
ちゃんはちの絶叫と何かが割れる音しか聞いていない二人は、花韮の顔を見てギョッとしてしまう。
「…何があったのか説明をちょうだい。」
むーは、花韮のたんこぶを見つめながら真顔で問う。
「…私が花韮に花瓶を投げつけました」
「いや、その前に私が部屋に入ったのが悪い。返事がなく心配だったとはいえ、勝手に人の部屋にずけずけと侵入するのはどうかと思う。すまなかった。」
「はい。回復薬よ。」
事情を察したむーは、自身のポケットから回復薬を取り出し、それを花韮に渡す。
花韮はそれを受け取り、瓶を開けて中に入っている液体をたんこぶにかける。
すると、腫れは瞬時に引いていった。
「…すまない。」
「いいわよ別に。…で、ちゃんはち。」
むーは、反省してしおらしくなってしまった花韮を見て見ぬふりしながらちゃんはちの名を呼ぶ。
呼ばれたちゃんはちは、姿勢を正す。
「はいなんでございましょう。」
「別に怒らないわよ。はい。」
そう言われてばさっと渡されたのは、様々な薬品のデータが記された資料たち。手書きのようで、とても綺麗な字ではあるが、使われている用語が難しすぎてどんなことが記されているのかわからない。
その資料の下には、花韮が持っていった仕事の資料が数枚混ざっていた。
目視できるだけで二十枚はある資料の束に、てっきり怒られると思っていたちゃんはちは驚く。
「…これ…」
「私の研究のデータ。それと、花韮からもらった仕事の資料。後で確認してちょうだい。」
「それなら私からも渡すものがあるわ。」
やみはそういいながら自身の左隣に置いてあった資料の束を両手で手渡ししてくる。
「はい。みんなでやった仕事の資料よ。」
「え、この量を一夜で!?」
「人は多い方が効率的なのよ。仲間というものにトラウマがあるのは私がよく知っているわ。けれど、それでも私達は仲間なの。仲間とは、互いに協力し合い、嬉しさも悲しさも共有していくもの。…どう、少しは楽になれたんじゃないかしら。」
「そもそもお前は仲間というものを湾曲して理解してんだよ。裏切って嘲笑って無視する奴らなんて仲間とは言えない」
ちゃんはちは、話してくれた二人を見つめた後、どこかを見つめる。
__私達仲間じゃん。
__なんで従わないんだよ。俺たち仲間だよな?
__仲間の私のこと、信用できないの?
かつて言われた言葉の羅列。
圧迫された意味のない言葉が、ちゃんはちの脳の中に直接、湯水の如く湧き出てくる。
__仲間が言ってんだからやれよ
__私達、仲間じゃないの…?
仲間という都合のいい言葉を並べて自由を縛り操り人形のように操作された、あの日常が。
ひどく鮮明に、残酷に、思い出される。
…私が仲間という言葉に、どれだけ騙されたことか。
正直、仲間という単語が大嫌いだ。
都合のいいときだけ仲間ズラして、飽きられたらまるで使い捨て容器のように捨てられる。
この世界に来て、もう仲間は作らないと割り切っていた。
けれど。
この世界に来たちゃんはちを助けてくれ、ここまで見守ってくれた太陽のような花韮とハーデンが、頭から離れない。
おそらく二人は、仲間というちゃっちい言葉じゃ表せない特別ななにかで固く結ばれている。
なのに、そう思ったというのに、それでも。
それでも、仲間というものに希望を抱いた。
誰とでもいいから、あの二人のように誰かと仲間になってみたい。
そう考えてしまって、ちゃんはちは、また仲間というものを作ってしまった。
孤独は嫌いだ。しかし、私は一人が好きだ。
みんなと過ごすこの世も好きだ。
矛盾を抱えているのが、たまらなく辛い。
(楽になりたかったのに、結局辛いんじゃないか。)
だから。
だから、どちらかに振り切る。
ちゃんはちは、仲間と共に生きていくことを決断したんだ。
どちらであることが辛いのなら、どちらに振り切ったほうが、楽しくて楽なのは間違いないだろう。
「…そうだね。ありがとう。二人とも」
にっこり笑うその姿に、やみといかりを始めとした感情達が穏やかな表情をする。
「じゃあ私、博士からくいちゃん用の情報共有機器をもらってくるよ」
「その前に、少し言いたいことがある。」
ちゃんはちが席を立とうとしたとき、花韮は口を突っ込む。
皆の話を傍観してる間にすっかり調子が戻ったらしい。いつものように腕を組み、悪態をつきながら話し出す。
「くいの寝る場所がない。それに客間もほしいと思っている。その博士とやらに仮設住宅でもなんでもいいから家になりそうなものをもらってきてくれ。」
「え、家をもう一個作るの!?」
「正確には別館だな。冒険者も招けるような大きなもの。」
「そんなんあるかな…ま、一応聞いてみるね」
「…すまんな。」
立ち上がるちゃんはちに向かって、くいが申し訳なさそうにいう。
「いやいいよ!じゃあ行ってくるね」
「はっちゃん!行ってらっしゃい!!」
ひかりの明るい声を聞きながら、ちゃんはちは家を後にした。
