扉がノックされる音で、ちゃんはちははっとする。
何時間パソコンとにらめっこしていたのだろう。
画面右下の時間を見ると、デジタル化された数字は零時を示していた。
(…大体六時間…。六時間か…)
またやってしまった、とちゃんはちは思う。
資料作成と仕事の片付けなどに集中しすぎてしまった。
一人で反省していると、また扉のノック音がする。
そういえば花韮がそこにいるのか。
ちゃんはちはそう思いながら扉の向こうにいる人に入っていいよ、と言う。
失礼、と言って部屋に入っていたのは、花韮無類だった。
「どしたの?」
「どうしたのではない。お前、六時間も何をしていた。」
「いやちょっと資料とか諸々をですね」
「…」
花韮は、パソコンの横に積み上げられている資料を見つめる。
「一人でその量は無理だ。貸せ。」
「いやだよ。花韮はこの世界の最高峰の御方じゃん」
「違う。私は他のものへ資料を渡しに行こうとしているだけだ。ちゃんはちへ渡しているのはグループメンバー全員で作業をして終わる量。一人でする想定で仕事を割り振っていない。いいから貸せ。」
「いやいいよ。自分でやった方が楽だし」
「…お前、昨日何時間寝た?」
「え…どうだろう四…いや三か?」
ちゃんはちの言葉に、花韮はため息を吐く。
「寝不足だ。今日は寝ろ。」
「いやだってその資料…」
「他のやつに渡してくる。いいから早くベッドに行け。」
「いや…」
「…」
渋るちゃんはちを、花韮は見下ろす。
そして、無理やり資料を奪い取る。
「ちょっ」
ちゃんはちは驚き資料を奪い返そうとしたが、体が思うように動かず、さらりと資料を取られてしまう。
花韮はその様子を見て、部屋の一番奥にある窓に近づく。
目に星々をちらつかせながら、花韮は思い立ったように呟いた。
「…お前は、この世界のどこからどこまで知っている。」
沈黙。
「…独り言だ。気にするな。」
そう言い、花韮は扉まで歩き、ドアノブに手をかける。
「…さいごまで、かな。」
ちゃんはちは、席を立ちながら呟く。
「…それは、誰のだ。」
花韮は、含みのあるその"さいご"という言葉に反応する。
しかし、その問いに対する答えはなかった。
「おやすみ」
「…あぁ。」
その一言で、ちゃんはちはもうこの話題を続ける気はないと気づく。
花韮は静かにドアノブを捻り、外へと歩みを進めた。
一人になった部屋の中に、ちゃんはちがベッド身を投げた音が響く。
おもむろに右手を天井に向かって突き出し、それをじっと見つめる。
「…」
ちゃんはちの瞳は、手ではないどこかを見つめていた。
__あのとき。
できることだったのなら。
もっと早く、楽になりたかった。
何が楽しくて、あの地獄を耐えねばならなかったのだろうか。
早く逃げればよかったのに。
もっと早く死ねたのなら、もっと早く楽になれたのに。
(…無理だろうな。あのときの私は、世界中のどこに行っても、あの地獄がどこまでも続いてると思ってたし。)
今のちゃんはちの年齢は、十六。
あんな閉鎖的な環境にいたからか、年齢に見合うような思考が伴わず、遠い場所に平穏があると聞いても信じられなかった。
__仲間と仲良く手を繋いで協力するなんて、考えられるはずがなかったのだ。
仲間と、友達と、仲良く喋って笑い合い、ときには痛み悲しみまでもを共有する。
そんな世界が、あることなんて知らなかったから。
それでも、この世界にきたちゃんはちは、花韮と、ハーデンと、感情のみんなと、共に在ることを選んだ。
何故なのかはもう覚えていない。
あのときの非常識が、今は常識だから。
(当たり前って、なんだろうね。)
ちゃんはちは、心でそう呟く。
瞳からは、涙が流れていた。
「…いつから泣いてたんだろ。」
こんな時を過ごしていると、ときどき、自分が何を考えて何をしたらいいのかわからなくなってしまう。
けれど。
(…私は、二人と約束したから。)
そう心で呟くと同時に、ちゃんはちは瞼を閉じる。
その瞳からは、一雫の涙が静かにこぼれ落ち、ちゃんはちの頬を伝っていった。
何時間パソコンとにらめっこしていたのだろう。
画面右下の時間を見ると、デジタル化された数字は零時を示していた。
(…大体六時間…。六時間か…)
またやってしまった、とちゃんはちは思う。
資料作成と仕事の片付けなどに集中しすぎてしまった。
一人で反省していると、また扉のノック音がする。
そういえば花韮がそこにいるのか。
ちゃんはちはそう思いながら扉の向こうにいる人に入っていいよ、と言う。
失礼、と言って部屋に入っていたのは、花韮無類だった。
「どしたの?」
「どうしたのではない。お前、六時間も何をしていた。」
「いやちょっと資料とか諸々をですね」
「…」
花韮は、パソコンの横に積み上げられている資料を見つめる。
「一人でその量は無理だ。貸せ。」
「いやだよ。花韮はこの世界の最高峰の御方じゃん」
「違う。私は他のものへ資料を渡しに行こうとしているだけだ。ちゃんはちへ渡しているのはグループメンバー全員で作業をして終わる量。一人でする想定で仕事を割り振っていない。いいから貸せ。」
「いやいいよ。自分でやった方が楽だし」
「…お前、昨日何時間寝た?」
「え…どうだろう四…いや三か?」
ちゃんはちの言葉に、花韮はため息を吐く。
「寝不足だ。今日は寝ろ。」
「いやだってその資料…」
「他のやつに渡してくる。いいから早くベッドに行け。」
「いや…」
「…」
渋るちゃんはちを、花韮は見下ろす。
そして、無理やり資料を奪い取る。
「ちょっ」
ちゃんはちは驚き資料を奪い返そうとしたが、体が思うように動かず、さらりと資料を取られてしまう。
花韮はその様子を見て、部屋の一番奥にある窓に近づく。
目に星々をちらつかせながら、花韮は思い立ったように呟いた。
「…お前は、この世界のどこからどこまで知っている。」
沈黙。
「…独り言だ。気にするな。」
そう言い、花韮は扉まで歩き、ドアノブに手をかける。
「…さいごまで、かな。」
ちゃんはちは、席を立ちながら呟く。
「…それは、誰のだ。」
花韮は、含みのあるその"さいご"という言葉に反応する。
しかし、その問いに対する答えはなかった。
「おやすみ」
「…あぁ。」
その一言で、ちゃんはちはもうこの話題を続ける気はないと気づく。
花韮は静かにドアノブを捻り、外へと歩みを進めた。
一人になった部屋の中に、ちゃんはちがベッド身を投げた音が響く。
おもむろに右手を天井に向かって突き出し、それをじっと見つめる。
「…」
ちゃんはちの瞳は、手ではないどこかを見つめていた。
__あのとき。
できることだったのなら。
もっと早く、楽になりたかった。
何が楽しくて、あの地獄を耐えねばならなかったのだろうか。
早く逃げればよかったのに。
もっと早く死ねたのなら、もっと早く楽になれたのに。
(…無理だろうな。あのときの私は、世界中のどこに行っても、あの地獄がどこまでも続いてると思ってたし。)
今のちゃんはちの年齢は、十六。
あんな閉鎖的な環境にいたからか、年齢に見合うような思考が伴わず、遠い場所に平穏があると聞いても信じられなかった。
__仲間と仲良く手を繋いで協力するなんて、考えられるはずがなかったのだ。
仲間と、友達と、仲良く喋って笑い合い、ときには痛み悲しみまでもを共有する。
そんな世界が、あることなんて知らなかったから。
それでも、この世界にきたちゃんはちは、花韮と、ハーデンと、感情のみんなと、共に在ることを選んだ。
何故なのかはもう覚えていない。
あのときの非常識が、今は常識だから。
(当たり前って、なんだろうね。)
ちゃんはちは、心でそう呟く。
瞳からは、涙が流れていた。
「…いつから泣いてたんだろ。」
こんな時を過ごしていると、ときどき、自分が何を考えて何をしたらいいのかわからなくなってしまう。
けれど。
(…私は、二人と約束したから。)
そう心で呟くと同時に、ちゃんはちは瞼を閉じる。
その瞳からは、一雫の涙が静かにこぼれ落ち、ちゃんはちの頬を伝っていった。
