仲間と私で未来を紡ぐ

その後、皆は家へと帰り、食堂へと足を進めた。
食堂に着いたら、机をくっつけ大きな長細い机にし、そこに座る。
机の幅が狭いほう…いわゆるお誕生日席に花韮が座り、議長を囲うように机の幅が広いほうに、皆は三対四になるように座る。

「…聞きたいことは山ほどあるが、まずはこれから聞こう。なぜ二人は争いを始めようとしたんだ。」

花韮のその言葉で、会議は始まった。
先ほどまでギャースカ騒いでいたちゃんはちも、グループリーダーとして相応しいような真面目な表情に顔を変える。
該当者であるやみは、くいが話し出さないのを見て発言をする。

「その話をするのなら、それより前の話をしなくてはならないけれど、そこから話して問題ないかしら?」
「問題ない。話せ。」
「わかったわ。」

花韮の言葉に、やみはそう返す。
皆に向けて会釈をしたのち、話を始めた。

「私達感情は、元々ちゃんはちの真っ暗で何もない世界に、ただ"感情"として存在していたわ。人の姿はしていない、色のある光のオーブとなって存在して、必要なときに必要な感情として自身の役割を全うしてた。その世界を、私達は感情の世界と呼んでいるわ。」
「感情の世界?」

聞き馴染みのない言葉に、花韮は怪訝な表情をする。
いや、聞いたことはある。それこそ、やみのあの言葉の中で。

「そもそも脳の中には、記憶を整理する世界、指令を出す世界、体そのものを管理する世界、そして感情を整理する世界があるわ。まだ小さな世界が無数存在するけれど、大きくまとめればこの四つの世界が主軸として宿主をサポートしているの。感情の世界はその一つ。」
「そんな世界が頭にあるなんて…」

ちゃんはちは、自身の頭を触りながら呟く。その声色は、とても不思議なものを目にしたようにワクワクしていた。
しかし、花韮は体勢を崩して腕を組む。

「それなら、感情であるお前らが感情の世界を出てしまったら大問題じゃないか?お前らがいないちゃんはちの感情はどうなっている。まさか何も考えずに人になったのではないだろうな?」
「落ち着きなさい。そこが論点よ。ていうか私達がそんなに何も考えずに感情の世界を出ると思っているわけ?きちんと前例的に出ても大丈夫と判断したのよ。」

やみはヒートアップした花韮を落ち着かせるように早口で話す。
花韮も頭は悪くない。その言葉と以前の言葉を結びつけて大まかな事情は理解した。
けれど、それだけで済ませる事案ではない。ちゃんはちはやると決めたらそれに向かってまっすぐに進む。そのちゃんはちの目標である、くいが仲間になるということには、元から存在する仲間からの同意が必要。
それにはまず、やみとくいの仲直りが必要だ。
次に他の仲間からの同意、そして最後にリーダーからの資料が必要。
花韮は最初の段階については特に問題視していない。
先ほどの二人はいきなり現れた人物に驚いてしまっただけのように思える。現に今二人が対峙しても殺意は見えない。
花韮が密かに問題視しているのは次の段階だ。
二人の仲直りとこの話の流れについていけてるかとなったら話は別。
ひかりとやさは、この怒涛の展開に何が起こっているのかわからないような顔をしている。

(おそらく二人が対立関係にある理由はわかるだろうが、一応状況を明確にしておいたほうが確実に良いだろう。)

花韮はそう考え、それとなくやみに詳しい話を要求する。

「それがなんだ。詳しく話してくれないとこちらもわからない。」
「だから落ち着きなさいって言ってるでしょう。安心しなさい、きちんと話すから。」

やみは落ち着けと言っても中々落ち着かない花韮に慌てながらも、円滑な会議ができるように詳しく話すことを明言する。
やみの発言を聞いて、花韮は計画通りといった満足げな声色を潜めながら言う。

「では話せ。」
「わかったわ。いつの日かにその"前例"は起こったの。私達感情は、いつも通り与えられた役割を果たしていたわ。けれど、一部の感情__苦しみの感情、悲しみの感情、そしておとなしい感情が、感情の世界で暴れ出したの。一人は悲しみの海で加担していない感情達を隅に流し、二人は己の力で無理やり感情の世界の"かべ"を破壊して逃走。他にも複数の感情がその穴から逃げ出した。」

やみは、過去を恨むのか悲しむのか曖昧な表情をしながら話す。
残ったのは闇の感情、明るい感情、無の感情、怒りの感情、優しい感情、冷たい感情、そして癒しの感情のみ。ほかの感情は外へ出るか波に飲まれて輝きを失った。やみ達はすぐに司令を出す世界に救助要請を出したけれど、復旧されたのは感情の世界に空いた穴だけだった、と。
言い終えたやみを始めとした感情達は、皆暗い表情になる。
くいは気まずいのか目を伏せていた。
その話を聞いた花韮は、顎に手を置いて何かを思い出しながら呟く。

「…そういえば、ちゃんはち言っていたな。ここへ来る前の世界で悲しみに包まれ絶望しここへ来たと。」
「あれ言ったっけ?」
「お前なぁ…。」
「いや流石に覚えてますって!何言ってんすか!」
「貴方のことだから本当か嘘かわからないわね。」
「やみちゃん!?」
「それより話はまだ終わってないわ。」
「ねぇ今の言葉なにさマジでおい」

ちゃんはちのことは華麗に無視してやみは続けた。
途方に暮れていると、突然空間から新たな感情が芽生えた。新たな感情は、元いた感情と同じ色をして同じ役割を果たした。それをみたやみ達は、それなら出て行った感情達を追えると判断し、司令を出す世界から許可をもらって初めて外の世界へ足を踏み出した。

「なるほどな。やみが怒っている原因は、くいが無断で感情の世界を出たことにあると?」
「少し違うわね。私は、ちゃんはちの感情という責務を放棄した感情全員に怒っているわ。」

花韮の言葉に、やみはくいをジロリと睨みながら恨みったらしく返事をする。
見られたくいは、目を合わせるだけで何も言わない。

「ねぇくい。また聞いてもいいかしら?」
「…感情の世界から抜け出した後何をしていたのか、だったか?」
「えぇそうね。役目を放棄したバカでも答えられる質問のはずよ。」

嫌味満載のやみに、くいは何も思っていないようだ。
しかし。

「__その質問には、答えられない。」

まさかの返答に、花韮までもがは?っと呟く。
他のものは、驚きに包まれて何も言い返せない。

「…今はまだ、その質問に答えられない。もう少し時が経てば__」
「ふざけんじゃねぇよ!!!!」

声を荒げたのは、いかり。
やみとくいの話だと、いかりは身を潜めていた。しかし、今の発言を聞いて黙っていられなくなってしまったようだ。
いかりはその言葉と同時に席を立ち、さらに声を荒げる。

「感情の役目放棄した野郎がよく言えたな!!ちゃんはちがあの後どうなったのかも知らねぇで!!てめぇみてぇな責任感もないやつが、質問に答えられないとか意味わかんねぇんだよ!!!!」

ダン!!っと強い衝撃音が鳴る。
いかりが机を叩いたのだ。
ちゃんはちの、あの後。
それは、あらゆる感情が突然として無くなった、ちゃんはちのその後の人生のこと。
荒んだ生活をして身も心もボロボロだったちゃんはちは、感情の世界が悲しみの海に沈んだことによって完全に生きる気力を無くしてしまった。畳み掛けるように唯一心を預けられるような数多の感情が欠落した。
ひかりとやさという前向きな感情を前に出そうとしたが、ぽっかり空いた心の傷はそれだけで言えるほど浅いものではなかった。
結果的にちゃんはちは__。
残った感情達は、一人の、主の人生が崩壊する瞬間を間近で見てしまった。
自分達にはどうすることもできない無力感。
最期に選択をするのは宿主の意思。
ちゃんはちは、自分の意思に従っただけだ。
わかっている。
おそらく、くい達があの世界から居なくならなくても。
ちゃんはちは、いずれ同じ結末を辿っていただろう。
わかる。
主の心が徐々に擦り減るのを見るのが、辛かったのは。
わかっているけれど。
一部の感情達が、勝手にしてはいけない選択をしたことに、他の感情は憤りを感じている。
__死期を早めるなんて、私達にはしてはいけないことなんだ。

「みんな」

感情達の耳に、一番聞きたくない声が聞こえた。
皆の感情の主。感情達の主。ちゃんはちの声だ。
いかりは、その言葉に従うように席に座る。

「…ごめんね。」

主の言葉に、皆は驚く。
一つの感情には理解できないくらい、苦しんだのに。
なぜ、この人は怒らないのだろう。
なぜ、謝るのだろう?

「私は、怒ってないよ。みんなのこと、大好きだからね。」

それに、と主は続ける。

「くいにも、事情があるんでしょう。仕方ないよ。」

その一言で、全ては片付いた。
ちゃんはちはくいに、けれどいつかは話してね、と言う。
くいは、必ずという言葉をつけてちゃんはちの言葉を了承した。
ちゃんはちがいいなら、という空気により、やみはくいの存在を口では認めた。
他の感情も、同じように。
そんな話をしているうちに、夜になった。
ちゃんはちは自分用の夕食を残しておいてとやさに頼んで、自室に戻った。

「はぁ…」

ちゃんはちは、一人だけの空間にため息を吐く。
そして、資料を作りながら思う。
今日は慌ただしかった。
けれど。
ここから…いや、"あれ"から全ては始まっているのだった。