仲間と私で未来を紡ぐ

花幻山から自宅までは少し距離がある。
森の中を抜けるように、皆は歩いていく。
家に着くまでの間、皆は和気あいあい__とまではいかないが、先ほどまでの険悪な空気とは真逆の和やかな空気が辺りを包み込み、一部を除いて話に蕾を膨らませていた。
柔らかな会話の音色が、青々と茂った木々の中へ溶け込んでいく。
しかし、一部__ちゃんはちと花韮は、何かを話し合っている様子だ。

「で?本当にくいを仲間に引き入れるのか?」
「うん。…え、今更ダメって言わないよね?」
「そんなこと言う気はない。が、少し珍しいと感じてな。」
「はぁ?珍しい?」

ちゃんはちは何を言っているのだという表情をして花韮の横顔を見つめる。
花韮はというと、チラリとほんの一瞬だけちゃんはちを見たのちまた前を見て腕を組み直す。

「あぁ。自身の感情とは言え、あんなに魔力を放っていた生物の話を信じ込むなんてお前らしくないと思ってな。」
「いや別に珍しくないと思うけどな…。」
「そうか?まるで…」

花韮はちゃんはちの横顔を見ながら、言葉を口にする。


「全て知っていたかのようだったぞ。」


柔らかな風が、二人の間を縫うように吹く。
ちゃんはちは花韮の目線に気づいているのかいないのか、前を向いて独り言のように言う。

「何言ってんの、ただの勘違いでしょ。」

その反応こそ珍しいと、花韮は再度前を向く。
そして、誰にも聞こえないくらい小さくため息を吐いた。

(情けない。私の一言で瞳を揺らす必要があるか。)

別に、私はちゃんはちを試したわけではなかった。少しおふざけを言いたくなったので言った、それだけだ。
しかし、今の反応は妙に気になる。

(おふざけにしては度が過ぎたか?しかしこいつはこんなことで感情を揺らす奴ではない。)

ただ単に気分的に癪に障ってしまったのか、あるいは__
花韮は、自身の思考に苦笑する。

(そんな御伽話のような話、あるはずがない。私の生きてきた時代に未来を見据えた能力者は"時の神"のみしか存在していない。気休めにしてもこんな馬鹿げた考えをしてしまって恥ずかしい。とにかく癪に障ったのなら謝罪しなければな。)

そう思いながら、花韮は再度ちゃんはちの方を見る。

「すまなかった。冗談にしては度が過ぎた。」
「…っは?」

その言葉だけ見たら、火に油を注いだと思うだろうが、ちゃんはちから発せられたその一文字は、予想外の言葉といったような困惑の声色をしていた。
その証拠として、花韮に向けられた顔には困惑した表情が貼り付けられている。

「は?ってなんだ。お前、私の発言に傷付いたり憤ったりしていたんじゃないのか?」

ちゃんはちは花韮をチラリと見た後、ブツブツと一言何かを言う仕草をする。
そして、突然腕を組んだと思ったら花韮に向かってこう言い放った。

「そうだよ!怒ってるよ私!なにが全て知っているだよ!意味わからないって!」
「すまないな。つい時の神がお前に乗り移ったのかと。」
「は!?なにそれ!そんなわけないって!」

ちゃんはちは花韮の言葉を消すように手を大きく振る。
__時の神。
それは、雲の上よりも遙か上空に住むとされている神様のこと。
この世界全ての時を管理する時の神は、未来にも過去にも自由に行き渡れると噂されている。
更に時の神について記されている聖書には、時空おも操り、他次元にも移動することができると記されていたらしいが、それは誇張して広まったでたらめに過ぎないだろう。
そんなことを思いながら、花韮は呟く。

「にしても、よく時の神のとこを知っているな。」
「…へ?」

ちゃんはちは、少し固まったのちに小さく呟く。
そんなことは気にせず、花韮は続ける。

「時の神は、私の産まれる前、つまり一万年以上前から存在している神らしいが、煙花散花の歴史的には四代目の__」
「いやいやいや待て待て待て!!!!!」

ちゃんはちは、淡々と話す花韮の言葉を叫び声でかき消す。
花韮はというと、不愉快そうにちゃんはちを見つめる。

「なんだ。今私が話をしているだろう。」
「いや!は!?え!?花韮って一万年も生きてるの!?」
「正確にはもう少し生きているがな。それが何だ?」
「何だ?じゃないんだよ!一万年ってなんだよ一万年って!人間そんなに生きられないから!!」

ピースカプースカ大声で話すちゃんはちに、花韮は首を傾げてしまう。

「お前、煙花散花について本当に知っているのか?」
「いや知ってるわ!誰が花幻郷最強のグループリーダーやってると思ってんだマジで」
「それなら、私が一万年も生きている…生きられている理由がわかるはずだが?」
「…」
「煙花散花に集う人々は、皆居場所を探し求めている。貴方も例外ではないわ。けれど、いまだに居場所を見つけられていない。そうでしょう?」

突然、背後からむーの声がする。
ちゃんはちと花韮の会話が気になったむーとそれについてきたいかりは、少し前からこっそり二人の会話を聞いていたのだ。

「盗み聞きか。そういうことはあまりいただけないぞ。」
「悪かったわね。で、なんの話をしていたのかしら?」
「なんかね?花韮が私のことを時の神って勘違いして!おかしい人じゃない!?」
「そんなことは言っていない。が、時の神の話をしていたのは確かだ。」
「ときのかみ?んだそれ?」
「神話の話でしょう。私は詳しく知らないわ。なにせ、神について記された本__聖書は、数百年前に全て神のお手元に戻されて厳重に、そして大切に保管されているもの。」

へぇ〜と、いかりは頷く。

「なんだ。もうそんなに年月が経ったのか。」

花韮も、驚きつつ頷く。
ただ、一人。
ちゃんはちだけは、前を向き瞳をゆらりと揺らす。
なぜちゃんはちは時の神を知っているのか。
言えない。
今は、まだ。