仲間と私で未来を紡ぐ

先ほどの和やかな雰囲気は消し飛び、静寂が辺りを包みこむ。
やみは黙ってくいを見つめる。
対するくいは、見つめてくる二人を交互に見る。が、緩く閉ざしたその口を開けようとする素振りはない。

「や、やみちゃん落ち着いて!くいちゃんにも事情が__」
「こいつのことを馴れ馴れしくちゃん付けして呼ばないでくれるかしら?」

やさは明らかにくいのことを敵対視するやみを宥めようとするが、やさの優しい言葉には聞く耳を持たないようだ。
あ、やばいな。とちゃんはちは肌で感じるが、二人を眺めるだけで何もしない。
くいの近くにいる花韮も、腕を組み片足に体重を乗せて立つ。
まるでくだらない争いが早く終わらないかと願うように。
他の感情達は、やみの地雷がわかるからなのか責めようとはしない。けれど、やみがいつくいに手を出すかわからずハラハラしている。
そんな拮抗した状態が長い間続く。
痺れを切らしたやみは、右手を左肩付近に近づけ、その手に魔力を練り始める。

「なんとか言ったらどうなのかしら。」

その言葉と同時に、魔力は形を成す。
やみの手には、漆黒に染まった苦無が。

「ちょっ!」

止めようとするやさをいかりが制する。
武器を手にしたやみを見てもなお、くいは何も言わない。

(ここでこの二人が戦ったところでどちらが勝つのかわからない。そもそもくいの力がどんなものなのかもわからねぇ。ッチ。ちゃんはちと花韮さんは何してんだ?こいつの武器取るのなんて容易いだろうが!)

武器を手に取ったことで、やみはくいより有利な立場にある。
そんな人間が、この無防備な人間に向かって攻撃を仕掛けることを我慢できるのか。
冷静、あるいは普段通りのやみならできたかもしれない。が、残念ながら今のやみは怒りのピークに達しようとしている。
我慢なんて言葉、そもそも脳みその中にないだろう。
やみは、右手首を僅かに揺らす。

「お前は戦闘の火蓋を切ったということになる。その認識でいいか?」

長く口を挟まなかった花韮が、口を開いてそう言う。
やみは、無表情のまま眼球を動かして声の主を見ようとした。
その瞬間、くいは駆け出しながら手に魔力を練って刀をつくり上げ、その勢いに身を任せるかの如く、やみに向かって刀を振り落とす。

「うーんやっぱりダメだね。作戦が見え見えすぎるよ。」

くいの手には、ちゃんはちの手ががっしりと掴まれていた。
なぜっと、くいは目を見開き震えた声で小さく囁く。

「なんかなー。殺意が丸見えっていうか。はいこの瞬間を狙ってましたー!っていう雰囲気がありまくりだったよね。やっぱり戦いしか知らない人はよくないよ。ね、花韮?」

くいの言葉が聞こえていないのか無視したのか、ちゃんはちは淡々とそう言う。

「黙れ。私は言ったはずだ。やみが手を動かした瞬間から戦いは始まっていると。敵から視線を背けるなんて冗談はやめろ。」
「なんだよ。別にまだ話し合いできそうだったじゃん」
「お前は先ほどまでの流れを見ていたのか?」

くい…いや、今話している二人以外は、おそらく会話にすら付いて行けていない。
話のレベルが違いすぎる。そもそも、第三者側の人達にはやみの手の動きすら見えていない。というか"見ていなかった"。
それを見極めた花韮も、言葉を聞いた後のやみの油断をついたくいも、瞬時にくいの行動を理解したちゃんはちも、全員のレベルが違う。
怒り一つのやみですらレベルの格差に気付き、苦無を魔力の粒子にして体内に戻した。
皆が呆然としている中、二人の会話は続く。

「うるさい。とにかくこいつらの話を聞かなければ部外者である私達が干渉できまい。」
「はぁぁ!?うるさいじゃないし!!」
「…はぁ。」

ギャーギャー騒ぎ立てるちゃんはちにため息を吐き、花韮は手をグーにする。
そして、固く握ったその拳を、自身の顔付近に移動させていく。

「なんだ?やるか!?」
「…………また」

殴られたいのか?と、花韮は言いかける。
しかし、花韮の二文字の言葉だけで何をされようとしているのか瞬時には把握したちゃんはちは、わざとらしく口笛を吹く。

「ピ、ピューピュー。た、たしかに花韮様の発言は合っておりますね。ピューッ。では一度マイハウスに戻りましょうか?」
「フッ。お前も疲れているだろう。どうだ?これだと家までひとっ飛__」
「あああ!!!あー!あー!なんか!あ!すごく走りたい気分だぁなぁ!!!」
「案ずるな。私は__」
「ねぇごめんなさいじゃんか!!ねぇ!おい!怖いからそのまま近づいてくんな!!人の話聞けや!!!」
「お前の真似事なのだがな。」
「だからごめんじゃんか!」

そんな二人の会話により、皆の心に平穏が戻っていく。
それは、敵対していたやみとくいまでもが、目を見合わせてため息をつくほどに。
話を整理しよう、と誰かが言ったことを起因に、皆は家へと足を進めた。