破断直後のEt cetera


 今年のバレンタインは休日だ。

 バレンタイン直前の平日。今日もグローバル部は世間のイベントごとには目もくれず稼働している。

 そもそも十二村製薬でのバレンタインは禁止なのだ。私だって、いくら部長にザッハトルテを要求されたからといって浮かれてはいられない。

 というよりも、仕事の忙しさから実はザッハトルテを作れていなかった。

 今週は2時間超過の残業続きで、家に帰ってお風呂に入って寝るだけの生活が続いている。

 ザッハトルテの材料はなんとか仕事の帰りに調達できたものの、とてもアプリコットジャムから手掛けている暇はなかったのだ。



「大路さん、10分後に下のロビーで待ち合わせよう。僕営業本部に寄ってから行くから!」

「分かりました!」


 楢崎課長が、ヒラヒラと回覧ファイルを扇ぎながら言った。

 今日は午後から、楢崎課長主導のミーティングに参加しなければならない。

 先月、私が対応した釜山の大手医薬品メーカーが、再び当社を訪問するということで、まずはロビーで出迎えなければならないのだ。


 
 先に1階のロビーで待っていると、高坂さんと鉢合わせた。

 コンビニで何かを買ったのか、手にはレジ袋が下げられている。

遅めのお昼ご飯を買ってきたのかもしれない。


「あら、大路さん。」

「お疲れ様です、高坂さん。」


 軽く会釈をして、再び外を見つめる。

 釜山の医薬品メーカーはタクシーで来ると言っていた。とりあえず楢崎課長を待ってから外に出て迎えた方がいい。

 そんなことを考えていれば、高坂さんの左手が私の肩に乗せられた。


「大路さん、十二村部長からチョコ貰った?」

「え、貰ってませんけど。」


 私を見つめる高坂さんの切れ長の瞳が、妖艶にしなる。

 普通なら何を言われるのかと身構えるところだけれど、今の私は釜山からの大事な来訪者にソワソワしている。