「あ、すみません、母から電話なんでちょっと出てきます!」
「うん。どうぞどうぞ。」
スマホ画面には、母からの着信の文字が映っている。
この3人をこのままにしていいものなのか。それでも吉香に片手で謝りのポーズをして、一旦外に出る。
「お母さん? なんだった?」
居酒屋の喧騒から逃れようと、小さな小路に入り、電話に出る。
母からの電話は、兄が来月帰ってくるというものだった。
来月行われる株式会社オージスの記念パーティーで、兄が承継するという正式な発表をするため、私にも出席して欲しいという内容だった。
(私もパーティーに出席するって、十二村製薬に在籍してるのにアリなの?)
母からの電話を切って、玄也さんのお店に戻ろうとする。
でも目の前には、十二村部長が立っていた。
「今日は2人の仲を邪魔して悪かったな。」
オールバックにしていた部長の前髪が落ちて、夜風に吹かれる。
度数の弱いアルコールと夜というシチュエーションにより、いつにも増して色香が溢れていた。
見惚れないよう、適当に言い繕う。
「部長? どうしたんです? 急に素直に謝って。」
「俺はいつも素直だ。」
もしかして、わざわざ私に謝るために外に出てきたのだろうか?
いやむしろ、あの状況が気まずくなって出てきたに違いない。
「それと、楢崎とは随分と仲良さそうだな。楢崎が自分の家に呼ぶなんてよっぽどだろ。」
「そんなことないですよ。大体あれは、私を助けるための言葉の綾ってやつでして、」
「『言葉の綾』?」
「い、いえ! そういえば、十二村部長だって仲いいじゃないですか。高坂さんと。」
「だとしたら何だ?」
「何って……。それだったら私だって楢崎課長と仲良くなったって、何の問題もないでしょう?」
連絡先のことといい、気の知れた仲だということといい、部長は全く否定する気はないらしい。
別の女性と腕を組んでラブホ街に入っていったことだってそうだ。あの時のことを問い詰めても、部長は一切否定しなかった。
きっと本当に十二村部長は、縛られたくない人なのだろう。
固定の女性を作らず、自由にその場だけを楽しみたい人間なのだと思う。



