「大路、聞いてもいいなら連絡先を教えろ。」
「ちょ、このタイミング?!」
「お前の隣がよく吠えるからな。」
「ちょっと! またそういうことを言うから!」
「大路には謝ってやってもいい。だが俺は『きっか』に謝るつもりはないからな?」
「はあ?」
どういうつもりなのか、十二村部長が吉香に向かって睨みを利かせる。
当然吉香も、対抗するように顔を反らし、ビールを片手で飲み干した。なんとも勇ましい。
楢崎課長に至っては、もうこの気まずい状況などお構いなしに、玄也さんに注文をしている。
「玄也さん! 僕もビール追加で!」
「あ、俺はカルーアミルク追加で。」
「ねえ、その見た目でカルーアミルクとかやめてくんない?!」
吉香の鋭いツッコミが飛ぶ。
十二村部長が最初に頼んだビールは、まだ半分も残っている。きっと苦かったのだろう。苦いの苦手だって言っていたし。
ある意味、吉香がくれたいい機会だ。
『バッハトルテ』を渡すためにも、連絡先は交換しておいた方がいいかもしれない。
「十二村部長、ライン交換しましょう!」
「勝手に誰かにバラすなよ?」
「バラしませんよ! 当たり前じゃないですか!」
「昔、俺のアカウントが出回ったことがあったんだよ。したらバンバン広告が飛んでくるわ、営業電話がかかってくるわで大変だった。」
「それでも志水さんや高坂さんには教えてるんでしょ? 随分とおモテになるようで。」
「悪いか?」
「……いえ、別に。」
それなのに、なんで私の連絡先は今まで聞いてこなかったんですか? 単に私が聞かなかったから?
なんて……。今さら部長の女性事情に首を突っ込む気にはなれない。誰に教えようがそんなこと、部長の勝手だ。
部長とスムーズにラインアカウントを交換すると、今度は楢崎課長が私の前にスマホを差し出してきた。
「じゃあ僕も便乗しちゃおっかな。今度一緒にスイーツ作る約束してるし、ね〜?」
「え。あの話って本気だったんですか!?」
「大路さんは本気じゃなかったの?」
「ええと、分かりました! とにかく交換しましょう。」
楢崎課長が笑顔で首を傾げる姿に、グッときてしまった。
この人の顔面の良さと器用さには敵わず、楢崎課長ともアカウントを交換した。



