楢崎課長の後を追いかけて、会議室に入る。
「僕はこの資料を隣の印刷室でコピーしてくるから、大路さんは今ある資料をそれぞれ一組にして並べておいてくれる?」
「分かりました。」
課長が会議室奥にあるドアを開けて、印刷室へと入っていく。
私は言われた通り、楕円の円卓になった机に、それぞれ資料をまとめて並べていく。
商談はもうあと30分ほどで始まる。なんとか間に合うだろうと、安堵から肩の力が抜ける。
営業本部での“商談”は、事前に前もって予定が組まれて行われるものだった。
楢崎課長の言う通り、“商談”のような大きな仕事が突発的に入ることを考えると、こうして資料を置く作業だけでも緊張してしまう。
(詩太さんにザッハトルテ作るのか、私。)
先日、リフレッシュスペースで言われた『お前からのも貰ってやってもいい。』という言葉と、さっき言われた『バッハトルテ』の言葉を考えてみる。
あれは、単純に甘いものが好きだから欲しいという意味なのだろうか? それとも。
(もしかして、私からのチョコを本気で欲しいと思ってる?)
ズボンのポケットで震えを感じて、スマホを取り出す。見れば吉香からのメッセージだった。
〈今日久々に飲みに行かない? 玄也さんのお店、今ビールが半額なんだって!〉
「え! ビール半額?!」
日本酒が好きな私とて、さすがにビール半額には食いついてしまう。つい声に出てしまった。
すると後ろから復唱する声が聞こえた。
「『ビール半額』? どこで?」
「わ! 課長!」
いつの間に印刷室から戻ってきたのか。楢崎課長がクスクスと笑いながら私の後ろに立っていた。
「す、すみません。実は友達から飲みの誘いが入りまして。私の知り合いのお店なんですけど。」
「へえ。このご時世にビール半額は大きいよね。」
「ですよね! 課長もお酒は飲まれるんですか?」
「もちろんだよ! お酒なきゃやってらんないって!」
そういえば、玄也さんのお店は十二村部長の行きつけだって言っていたけれど、もしかして、楢崎課長も……?



