「大路さんて、スイーツ作り得意?」
「へ?」
「例えばさ、シフォンケーキとか、パウンドケーキとか。僕けっこう得意なんだよね〜。」
空から振ってきたような言葉に、楢崎課長を見つめる。
一瞬だけウィンクのように片目を閉じて、私に合図なようなものを送った。
「な、楢崎課長もスイーツ作るんですか?」
「作るよ。独り身だと色んな料理試してみたくなるし。大路さんは? はい、最近作った力作をどうぞ。」
「え、ええっと。あれです。ザッハトルテを作りました。」
「え、凄いね! ザッハトルテってあれでしょ? アプリコットジャムが挟んであるやつ。」
「そうです! よくご存知ですね!」
「僕を見くびってる?」
「すみません見くびってません! 実はジャムから手作りしましてね、」
「うっそ、ジャムから作っちゃうの? ちょっと今度僕にも教えてよ〜。」
「はい! もちろんです!」
「じゃあさ、今度うちで一緒に作ってみない?」
「いいですね〜! って、はい?」
待って待って、『うちで』ってどういう意味ですか課長?
勢いで返事をしてしまった手前、今さら断ることも出来ない。
楢崎課長がニコニコと笑みを絶やさないまま、肩をつけて距離を詰めてくる。
ええと、これはどう反応したら……
「あ、ごめんね! すっごい軽いノリで家に誘っちゃって。でも極めて純粋なスイーツ作りのお誘いだから!」
「そ、そうなんですね! 楢崎課長のおうちかあ〜。きっと綺麗なんだろうな〜。」
自分でも何を口走っているかよく分からない。とにかく今は課長に話を合わせることが先決だ。
前に立つ十二村部長と高坂さんは、特に反応も見せず、黙ったままエレベーターの点滅する階数を眺めている。2人の会話が中断していた。



