「十二村部長、もうすぐバレンタインですけど、14日は何か予定があったりしますか?」
高坂さんが、隣に並ぶ十二村部長に話を振る。
こんな狭い空間で、よくもまあプライベートな話ができるなと思う。
「特にない。」
「去年は確か、瑞江総合病院の志水さんと会ってましたよね?」
「そうだったか? 覚えてない。」
「チョコを貰うついでに、ディナーに誘ったって言ってたじゃないですか。」
「ああ。そんなこともあったな。まあ大事な取引先の教授秘書だから、ディナーくらいは誘ってやったまでだ。」
「じゃあもし今年、私が部長にチョコをあげるって言ったら、部長は私をディナーに誘ってくれます?」
「高坂をディナーに誘ったところで有益な契約をとれるとは思えないが?」
そのやり取りを聞いて、楢崎課長が「ふっ」と笑いを溢す。
(楢崎課長! そこは笑っちゃダメでしょ! よくこの状況で笑えますね!)
心の中で盛大なツッコミを入れてやり過ごすも、高坂さんは楢崎課長の笑いが鼻についたようで、攻撃が止まらない。
「じゃあどうすれば部長とバレンタインディナーに行けるんですか? 私がどれだけ部長に尽くしてきているか分かってます?」
「分かってる分かってる。」
「もう。全然分かってないじゃないですか! こっちは部長が無理やり詰め込むスケジュールを、臨機応変に組み込んで管理しているんですから!」
「そうだな。じゃあこうしよう。俺が高坂にチョコをやるってのはどうだ?」
聞き捨てならない言葉に、十二村部長の背中に向け顔をしかめる。
高坂さんも高坂さんだ。そこまで部長を追い詰めるなんて、絶対に私への当てつけに決まっている。
「ええ! ほんとですかぁ?! 嬉しい! だったら私、あそこのチョコが欲しいです!」
「どこだ? 後から画像を添付してラインで送れ。」
「やったー!」
そういえばこの2人、私用でも連絡を取り合う仲だった。
私なんて未だに十二村部長の連絡先を知らないというのに。
チョコの一つや二つ、十二村部長から貰えなくても、私のメンタルはこれ以上降下することはない。はず。
だから大丈夫、大丈夫……。
2人の何気ないやり取りが、とてつもなく深いものに思えた。
高坂さんは私への当て付けでやっているだけだと分かっているはずなのに。普段から会話がなければ、ここまでスムーズなやり取りは出来ないだろう。
やっぱり羨ましいと思う。悔しいけれど、十二村部長がいかに仕事の上で高坂さんに信頼を置いているかを知っているからこそ、余計に。
気持ちが沈むと同時に、自然と顔も俯いていく。
すると、壁に背中をつけていた楢崎課長が、すっと姿勢を正して私の真横で言った。



