それでも、
「でもこんな風に頼ってもらえるのはありがたいことです。」
「ほんと? 僕は赤堀部長の突発的な思いつきにいつも振り回されて、時々発狂しそうになるけどね。」
「でもそれって、楢崎課長が信頼されてる証拠ですよ。」
「信頼?」
「はい! 赤堀部長だって、できない人に“思いつき”を頼むなんてことはしないと思いますよ?」
15階から下りていくエレベーター内で、楢崎課長が奥の壁に背をつける。
ふう、と空間内に響くほどの溜息を吐き、隣の私を見た。
「そうやって大路さんが言ってくれるだけで救われるよ。ありがとう。」
「え? そ、そんな。私、自分が今まで仕事で頼られてこなかったから。赤堀部長に頼られている楢崎課長が羨ましいです。」
「……そういえば前にも言ってたけど、十ニ村とはあまり喋ったことなかったの?」
「はい。」
「プライベートでも?」
「……はい。なかったですね。」
仕事では1割程度、プライベートでは皆無だった。
まさか婚約解消後に、初めて会話らしい会話をしただなんて誰も思いはしないだろう。
しかも、キスまでされて――。
まだ自分の一部が、詩太さんに惹かれていることに驚く。
こうまで私を弄ぶ詩太さんは、一体私にどんなエンディングを刻むつもりなのだろう?
唇に意が持っていかれそうな直前、エレベーターが10階で停止する。
ゆっくりとスライドしていくドアの前には、十二村部長と高坂さんが立っていた。
慌てて背筋を伸ばし、緊張感を携える。
高坂さんが真っ先に楢崎課長に視線を這わせて、でも隣に小さな私が見えたせいか、一瞬だけ睨まれた。
私がグローバル部に異動したことをよく思っていないのかもしれない。
でも確かに高坂さんは、私が十二村部長と婚約解消したと知って嬉しそうにしていたはずだ。
今さら怖気づく必要はない。



