破断直後のEt cetera


 大路未怜。純粋なお嬢様だと思っていた俺のイメージが、見事に覆されたのはまだ先月のことだ。

 あそこまで俺に歯向かう女は初めてだ。 


『ふざけんじゃないわよこの見せかけ御曹司!! 婚約破棄だぁ?! んなもん私の方からお断りですよ!!』


 威勢の良さと口の悪さに、一気に拍子抜けした。女子校育ちのお嬢様とはとても思えない。

 しかも俺の本性を見ても動じないとは。恐怖心どころか、態度の悪さで立ち向かってきたことに唖然とする。

 大路は、思っていたよりずっと強い人間なのだろう。

 一度会話をしてしまえば、こちらからも気兼ね無く話すことができた。喧嘩越しとはいえ、この数日間で距離が一気に縮まった。

 今までは怖がらせてはいけないと思い、どう話しかけていいのか分からず、オージスの令嬢という人種の扱い方に身構えていた部分があった。

 勝手にイメージで凝り固めていた自分が馬鹿らしく思える。
 

 ふと、自分の唇を指でなぞる。

 確かに大路は、思っていたより強い人間かもしれない。

 だがあれはまだ男を知らない。知らないのに、恋はしている顔だ。

 ホテルでもそうだったが、まるでキスに慣れていない。

 頬を染め、俯く表情は、どこか迷っているようにも見えた。

(もしかして、俺にキスされることを嫌がってる……?) 

 デスクに肘をついて、手の甲に額をのせる。

 婚約解消は間違っていないはずだ。

 オージスは安寧の道を切り開いたのだから。これ以上俺との婚約に縛られていいはずがない。 

 それなのに。悔しい。悔しくて堪らない。

 アイツの眼中にあるのは、たった一人なのだろう。今になって大路に意識されていないことを痛感するなんて。

 悔しさのあまり、ホテルではけしかけるようにキスをしたというのに。したらしたで、さらに欲が出るばかりだ。

 楢崎に、大路の有能さを見抜かれたことすら悔しすぎる。

 もっと初めから距離を縮めて、かわいがってやればよかったのだ。今になって猛省する。