「大路さん、今日も定時で帰って大丈夫よ。部長のお世話は私に任せて。」
「わかりました。ありがとうございます。」
私も当たり障り無く、とにかく高坂さんの言うなりになっている。
少しでも十二村部長の役に立とうとすればするほど、社内での風当たりは強くなると学んだ。
帰り道、このストレスをどうにか解放したい私は、女子校時代からの親友を誘って飲みに行くことにした。
親友の東雲吉香が自由で羨ましい。
彼女は老舗和菓子メーカーで働く営業マンで、小さい頃から和菓子が大好きだったためその夢を叶えている。
しかも今は同期の男といい感じらしい。
いつも2人で会う時は、吉香の『好きピ』とのノロケと、私の婚約者の悪口大会で大いに盛り上がっていた。
「最悪最悪〜〜〜!!! てかそれってほんとに婚約者としての態度なの?! ねえもうそんな婚約辞めちゃいなよ未怜!」
「ですよね。マジ私何のために毎日毎日こんなにモヤモヤしながら仕事しなきゃなんないのかわからんし!」
「てかその先輩マジうざ。」
「地獄に堕ちろって感じだけどさあ、詩太さんのがおかしくない? だってなんにも会話ないんだよ? マジ私のこと置物とか思ってんじゃない?」
「置物って何? たぬき?」
「ひどくない? たぬきにはでっかいタマついてるんですけどー」
ギャハハハハハハハハ
こうしてバカみたいに笑ってるだけで心のモヤモヤが晴れていく。
吉香も私も、お酒が入っていないというのにこのザマ。周りのお客さんたちが若干引いている。
女子校の性というべきか、女を捨てたノリが身体に染みついてしまったのだ。
会社の私は仮の姿。というか、婚約者の前でこの本性がさらけ出せるわけない。
「私ってさあ、なんで詩太さんのこと好きなんだろうね。会った時の第一声が『へえ』だけなのに。」
「もうさ、認めたら? 別に彼自身を好きなんじゃなく、恋してる自分に恋してるだけだって。」
毎度毎度、この悪口大会は、結局『詩太さんに恋してるわけじゃない』という言葉で締めくくられる。
でもね、頭のどこかで期待しちゃってる自分がいるんだよね。
14歳からの憧れだった婚約者が、いつの日か自分を溺愛してくれるんじゃないかって。
完全に文芸部の夢系女子の思考だ。
(詩太さん。なんで私とは目すら合わせてくれないの?)
早く夢から覚めるべき。



