27畳のリビングには、壁にかけられた80インチものテレビがある。
お父さんの教育で、常にニュースを見ろと言われているため、大概リビングのテレビは、人がいれば点いている。
首脳会談のニュースを見ながら、ビジネス英語の難しさについて改めて痛感する。
果たして今の私に、グローバル部でやっていけるほどのスキルとメンタルはあるのか。突然不安に襲われる。
ソファにもたれかかり、考えるのを半ば諦めモードで膝を立てれば、小松さんがテーブルに湯呑を置いてくれた。
香ばしい梅昆布茶の香りがする。
「未怜ちゃん、この間は玄也のお店まで足を運んでくれてありがとうね。」
「い、いやあ。玄也さんのお店のアサリの酒蒸し美味しかったなあ〜。」
小松さんにふふ、と笑いかけられて心臓がギュッと萎縮する。
まさか玄也さんのお店で、十二村部長に会ったなんてとても言えない。会っただけならまだしも、自分が忘れ物をしたせいでホテルに連行されるなんて。あれは人生最大の事件、いや汚点だ。
脳裏にホテルでの事象が思い浮かび、両手で梅昆布茶の湯呑を持つ。手から伝わる温度で、顔の熱さを誤魔化した。
玄也さんのお店は大好きだ。お酒の種類も豊富だし、おつまみも私の好きなものばかり。アサリの一粒一粒が厳選されているかのように身がプリプリしていて、原料からして他とは違うのだ。
(どうしよう。もう玄也さんのお店に行けない……!)
そう思いつつも、玄也さんのお店に行けば、『会えるかもしれない』という反比例の可能性をどこかで期待してしまっている自分もいる。



