破断直後のEt cetera




 連絡先も知らない婚約者に思いを馳せ、毎年バレンタインデーには手作りチョコを用意していた。

 食べ物の好みも知らない癖に、浮かれて勝手にチョコを作って、綺麗に包装までして。

 メッセージカードも何度も書き直してチョコに添えて、少しでも私という存在に興味を持ってもらおうと必死だったのだ。

 高校2年生、17才のバレンタインデー。それまで毎年勇気が出せず、詩太さんに渡せなかった経験から、その年は学校帰りに吉香についてきてもらい、詩太さんの実家に初めて訪れた。

 ただとてもじゃないけれどインターホンを押す勇気はないし、大きな門構えに尻込みするあまり、しばらく吉香と角に身を潜めて詩太さんが帰ってくるのを待っていた。

 その頃詩太さんは大学2年生で、大学まで車通学をしていた。実家の車庫が自動的に開いて、私の横をライトグレーの外車が横切っていく。

 ようやく帰ってきたと心を弾ませたのも束の間、詩太さんの助手席には派手な女の人と、後部座席には髪色の明るい男の人が2人。

 私の知らない世界が垣間見えて、すぐに胸が軋んだ。

『ほら、大学生って研究レポート書くのが大変だって言うから! きっと友達と集まってレポート書いたりするんだよ!』

 吉香が笑顔で私に言った。

 その言葉に救われると同時に、その優しさが辛くもあった。

 自分とは住む世界が違う人。いつか、同じ色の世界を見れることを夢見てきたけれど、彼の住む世界は私が思い描くよりも、もっとずっと生々しくて綺羅びやかな現実なのだ。  

 車庫から出てきた詩太さんと私の間には、私では到底踏み込めない大きな壁が立ちはだかっていた。


『詩太さぁ、東高の連中相手にしてたってほんとぉ? あんたの黒歴史が噂んなってんだけど。』

『どうたったか。』
 
『お前ヤバくない? どんな高校生活送ってたんだよ。』

『来るもの拒まず、去るもの追わず。』

『なんだよそれ。モテモテか。』


 彼らの引きつる笑い声が私の脳内に木霊する。
 
 その日は結局、チョコを渡すことになく家に帰った。 

 その日だけじゃない。これまで何年も、社会人になってからだって、せっかく用意しても渡すことなくバレンイタインデーを過ぎてきた。

 気づけば私のお菓子作りの腕はそこそこ上がっていて、英語の勉強といい、自分のスキルは全て無駄になっていくばかりだ。