陰日向に咲く儚花


「はぁ······、気分悪いから外で飯食って来るわ。」

竜介はそう言うと、スマホに財布、車のリモコンキーだけを持ち、家から出て行った。

(きっと、沙瑛さんに会いに行くんでしょ。)

わたしはそんな事を思いながら、ケトルでお湯を沸かし、一人でカップ麺をすすった。

わたし、どうして竜介と結婚したんだっけ···――――

そう考えるわたしの左手薬指には、既に結婚指輪はない。
勿論、竜介も何年も前から結婚指輪をしていなかった。


わたしたちの出会いは、現在勤めている職場だった。

全国展開されている商業施設"ReON(リオン)株式会社"で働いているわたしたち。
当時のわたしは正社員として第2事業部のH店でハード担当社員として働いていたが、春の辞令で主任に昇格し、"ReON"の中では小型店に入るA店に異動となった。

そこで出会ったのが、食品課長をしていた竜介だった。

食品課と住余課で部署も違う為、接点はあまり無かったが、事務所に入り浸る事が多かった竜介は、普段は売場に出ているわたしがパソコン業務の為に事務所に立ち寄る度に声を掛けてきた。

相手が"課長"と立場が上な事もあり、最初は当たり障りなく接していたが、話す機会が増え、仕事帰りに食事に誘われたり、自宅まで車で送ってくれる事が積み重なり、自然と交際する流れとなった。

社内で"イケメン"と持て囃されていた竜介は、確かに178センチある高身長で、顔立ちも割と整っていた。
その為、竜介と交際を始めたばかりの頃は、女性パートさんたちから嫌味を言われたりなんかもした。

しかし当時の竜介は優しく「菫には俺がついてるから、気にするな。」と言ってくれており、わたしもそんな竜介の事を信頼していた。