陰日向に咲く儚花


休憩に入ると、わたしはいつも通り5階の休憩室で野菜ジュースを飲んだあと、事務室に向かった。

すると、事務室には竜介の姿があり、相変わらず事務室で仕事もせずにお喋りに花を咲かせているようだった。
今日のお喋り相手は、総務課の粟屋(あわや)課長だ。

「おっ、美人の奥さんがお出ましですよ。」

わたしの姿を見て、竜介を茶化す粟屋課長。

わたしは「お疲れ様です。」とだけ挨拶すると、ハード専用デスクについた。

「いやいや、美人だなんて、普通だよ。」
「またまたぁ〜!美人で人気のあった森崎(もりさき)さんを射止めといて、何言ってるんすかぁ〜!」

そう言って竜介を小突く粟屋課長は、半年前に服飾の主任と結婚した新婚さんだ。
ちなみに森崎とは、わたしの旧姓である。

「いやぁ、でも新婚の粟屋課長が羨ましいよ。三木(みき)主任とは、ラブラブなんだろ?」
「そりゃあ、まだ結婚して半年っすからね〜。」
「うちはもう落ち着いちゃってるからさ。」
「3年も経てばそうなりますよね。でも、夜の方は?まだあるんすよね?」
「おい、そんな事聞くなよ〜!んー···、まぁな!」

事務室で話すような内容ではない会話を笑いながらする42歳と39歳のおじさん二人。

わたしは(気持ち悪っ。しかも、うちはもうしばらく、そんなことしてないし。)と思いながら、そんな二人の会話が聞こえないふりをしていた。

「三木主任は、どんな感じなんだよ。」
「んー、あまり大きい声じゃ言えないっすけど···、意外とグイグイきますよ!」
「可愛い顔してグイグイくるのかぁ!エロいなぁ!」
「それがたまらんのですよぉ〜!」

耳栓でもしたくなるような話に、わたしは完全にドン引きしていた。

(早く入力済ませて、事務室出よう。)

ステーショナリーはゲーム部門も担当の為、毎週ゲームの予約件数を入力して本社へ報告する必要があり、それを怠ると予約分のソフトが入荷しなくなってしまうのだ。

わたしはその入力を終えると、事務室に居たくないあまり、少し早いが休憩を終えて売場へ下りる事にしたのだった。