陰日向に咲く儚花


「本当に助かりました、ありがとうございました。」

コピー用紙を箱から出して陳列するまで手伝っていただき、わたしは日向主任に頭を下げてお礼を言った。

すると日向主任は「いえ、そんな大した事してませんよ。」と優しく微笑んだ。

「あ、そういえば、自己紹介がまだでしたね。今日からホームファッション主任として着任しました、日向慈(ひなた めぐみ)です。よろしくお願いします。」
「わたしは、ハードのステーショナリー担当をしています。野花菫です。よろしくお願い致します。」

わたしがそう自己紹介すると、日向主任は「あ、もしかして、食品の野花課長の奥様ですか?」と訊いた。

わたしはその問いに驚きながらも「···はい。」と苦笑いを浮かべた。

「先程、事務所で皆さんに挨拶をしている時に野花課長が仰っていたので。」

日向主任の言葉を聞き、(また何か余計な事でも言ったんだろうなぁ。)と思いながら「そうだったんですね。」と返すわたし。

きっと日向主任も、竜介の外面の良さから、竜介には好印象を抱いただろう。

「ホームファッション主任に、ステーショナリーの仕事をさせてしまって申し訳ありませんでした。このくらい自分で運べるように、筋トレしなきゃダメですね。」

竜介の事から話を逸らす為にわたしがそう言うと、日向主任は「ホームファッションもステーショナリーも関係ないですよ。俺が出来る事ならお手伝いしますので、困った事があれば言ってくださいね。」と言って、爽やかな微笑みを見せた。

「それじゃあ俺は、他のパートさんたちにも挨拶して来ますね。」

日向主任はそう言うと、わたしに会釈をしてホームファッションの売場の方へ歩いて行った。

(ホームファッションもステーショナリーも関係ない、かぁ······)

そんな事を言われたのは初めてで、わたしの中ではかなり衝撃的だった。

ハードとホームファッションは、ハッキリ言ってしまえば仲が悪く、特にホームファッションは"何でも屋"扱いをされがちなハードを見下している節があった。

その為、ハードがホームファッションの業務の手伝いをする事はあっても、ホームファッションがハードの業務の手伝いをする事はない。

そんな中での日向主任の今の言葉は、わたしの中に深く印象に残る言葉となったのだった。