池杉学園GOODグループ

 生徒会室は、体育館横に新しく建てられた三階建ての校舎の一部で、ほぼ独立した建物になっている。教室棟は校門正面に位置して、一年生の教室は二階。クラスは五クラスに分かれているから、七条由とは別クラスであることを願いたい。
 しかし、そんな俺の願いも虚しく、同じ教室の隣の席に座ることになったのは、なんでだろうか? 拷問だろうか? 俺が一体何をしたっていうのか。あんなに晴れやかな気持ちで入学式を迎えていたはずが、今は地獄のどん底にいる気分だ。

「工藤くんって新入生代表の人だよね?」

 教室でも七条由の存在は特段目立っていて、押しかけるクラスメイトの波を横目に浮かない気持ちでいたら、急に俺にも声がかかった。
 顔を上げれば、日に焼けたような健康的な肌にぱっちりとした瞳をキラキラさせた女の子がこちらを興味ありげに見ている。

「あ、うん。そうだけど」
「だよね! すごくかっこよかったよー! なんか同じ新入生なのに、大人っぽくてあいさつもしっかりしていて。すごいなって思った!」
「え……」

 ぱぁっと、花が咲いたみたいに彼女の周りがさらに明るくなる。
 真っ直ぐに向けられた言葉が胸に刺さる。そんな風に言ってもらえるなんて考えもしなかったから、ものすごく、嬉しい。

「あ、ありが……」

 湧きあがる感謝の気持ちと同時に、言葉に詰まった。周りに集まってきているクラスメイトの波が、こちらを一斉に向いたように感じたからだ。
 その瞬間、また記憶の中に声が聞こえてくる。思い出したくない言葉とたくさんの笑い声。
『こっち見てんじゃねぇよ! 消えろ!』
 ドクンッと心臓が脈打つ。息苦しくなって、視線を下に落とした。

「……くん……工藤、くん。どうしたの?」

 うっすらと名前を呼ばれている気はする。だけど、意識が遠のいていく。
 気持ちが悪くなってきて、俺はゆっくり立ち上がるとふらつきながら教室の外を目指した。

「ちょっと、保健室……」
「おい、大丈夫かよ。なぁ」
「顔色悪いよ」

 周りの声が反響して聞こえる。耳鳴りがする。うるさくて耳を塞いだ。頭が痛い。全身の力が抜けて立っているのが辛くなる。
 倒れそうになって壁に手をついた瞬間、誰かが俺を力強く支えてくれた。
 それが誰かもわからずに気を失いかけた時、ボソリと聞こえたのは、「なにしとんねん、ボケが」と、たぶん、七条由の声だ。