池杉学園GOODグループ

 廊下から外を眺めると、校庭では部活動にはげむ生徒がたくさん見える。そういえば、部活動の案内もあったはずなのに、気が付けば生徒会の人達に振り回されて、それどころではなかった。
 サッカーをしてみんなから仲間はずれにされたことを思い出すと、スポーツで協力し合うとか、誰かと競うとか、そういうことはもうしたくないなと思う。だから、生徒会に引き抜かれたことはラッキーなのかもしれない。
 こっちはこっちで大変そうではあるけれど。

 そして、さっそくたどり着いた教室には誰もいない。

「あれ? もしかして隠れてるな?」

 スマホを手にして、わざとらしくGOOD由を演じ始めた由の後ろで、俺も教室内を見回す。
 放課後とはいえ、誰もいないのは違和感だ。廊下ではさっき数人の先輩たちとすれ違ってきた。由の人気ぶりは思ったよりは控えめな気がする。生配信なんてやっていたら、もっと周りがわちゃわちゃと身動き取れないくらいにごった返すと思ったのに。
 まぁ、そんなアイドルじゃあるまいし、単なる学校の中でのイケメンならこんなもんかと、安心はする。

「もしかして、もう向こう行ってるのかな」

 ふむ。と顎に手を置いて考えるポーズを取る由。立ち姿はまるで雑誌に掲載されているアイドルみたいな雰囲気で、思わずそのスマホを俺によこせと言いたくなる。全体像をみんなに見せないともったいない気までしてくるのは、なんでだろうか。

「おい、由!」

 廊下から、急に低い怒りの声が聞こえてくる。すぐに振り返ると、そこにいるのは急いでやって来たのか、息を切らせた影先輩だった。
 真っ黒い影を、ゆらりと炎のようにまといながらこちらに向かってくる。
 え、あれ完全に怒ってないか!?
 隣にいる由を見れば、平然とした顔のままで影先輩の方を見ながらため息を吐き出して、スマホの配信を一旦止めている。

「配信をしろとは言ったが、ゴール地点は伏せろと言ったはずだぞ!」
「……そうやったっけ? ってか、俺ゴール地点の話なんかしたやろか?」

 無言でクールな印象だった影先輩が、青い怒りの炎をゆらりゆらりと揺らしているように見える。熱い炎よりもむしろ冷ややかな炎の方が数倍怖い。が、由はそんなのまったくおかまいなしでひょうひょうとしている。

「残りのメンバー集めたらぁ言うただけで、ゴール地点なんて言ってへんで」

 よほど自信があるのか、由は睨む影先輩にひるむことなく睨み返している。
 いや。でも、思い返せばたぶん由は言っている。
『僕たちは歓迎会の場所に無事到着することが出来るのか! まだ池杉学園の構造をよく知らない蒼輝くんと一緒に【調理室】目指して歩いて行きますー』
 うん、言ってるな。最初は歓迎会の場所ってにごしたのに、けっきょく言ってる。完全に。
 しかし、俺には言った言わないの話以前に、こんなところで揉めていていいのかと心配になって辺りを見回した。すると、廊下で香坂さんがなにやら交通整理をするような手の動きをしているのが見える。
 もしかして、ここに人がいないのは、香坂さんが生徒を誘導していたから? だとしたら、由の見守り役として完璧過ぎる。

「重要なとこばっか全部聞こえてんだよ。そして、お前の小声もバカでけぇんだよ!」

 香坂さんに感心していたら、こっちでは影先輩がかなりご立腹だ。
 もしかして、さっき小声でしゃべってたやつ全部配信されていたってことか!? それってヤバいじゃねえか! とあせって振り返っても、由は驚きもせず平然としている。

「あー、だからなんや」
「あー! その態度がいつ見てもムカつくんだよ! お前のせいで調理室が今大変なことになってんだよ! せっかく極秘で歓迎会やる予定が、結局会長ら二人のオンステージになってんだよ!」

 影先輩の綺麗な顔がぐっちゃぐちゃに歪んでいる。まるで悪魔のような形相だ。生徒会に鬼も悪魔も要らないのだが。目の前の二人を見て、心底思う。

「会長らの人気、エグいからなぁ」
「もうあの人らの時代は終わりだろ。そのために由が選ばれてんのに、配信中の由の周りに誰もいないってどういう事なんだよ! おかしいだろ!」
「影先輩ー、ほんまやねん。俺泣きそうやわ」
「俺の方が泣く! あの人らはマジで完璧過ぎるんだよ。でもな、それを超えられるのは由だけだ! もっと自覚して堂々と歩けよ!」

 ん? あれ? 由に怒ってるのかと思えば、なんだかだんだん流れが変わってきている気がするぞ? って言うか、由に怒ってはいるけど、その怒りがなんか、よくよく聞いていると励ましのような気がする。悪魔が徐々に天使に変わっていくように見えて、目をこすった。

「影先輩サンキューやで。でもな、心配要らへん。あの人らはな、俺と蒼輝の前説や。俺らの登場と共に、もっと盛り上がらせてみせるから安心して見とき」

 ウインクをして影先輩の肩をポンっと叩く由に、何故か頬を赤くしてうっとりと見つめる影先輩。さっきまでの悪魔はもうどこにもいない。そして、俺の思い描いていたクールでカッコいいミステリアスな雰囲気の影先輩も、今はもう存在しない。

「え、なに。どういう展開?」

 先が見えなさすぎて怖い。俺はもう笑うしかない。