教室では、ようやく今日から授業らしい授業が始まった。
香坂さんの言った通りに、隣の席の由は先生の話を聞いているのかいないのか。数分おきに確認してみると、机の上に置かれたタブレットを操作しては、難しい顔をしたりニヤニヤしたりしている。
いや、これ、授業まったく聞いてないな。
呆れつつ、そっと画面を覗き見る。すると、そこにはSNSの画面が表示されていた。
今は数学の授業で、タブレットは開きつつも基本的にはノートと教科書を使って黒板に書かれた問題を解いているところだ。誰もタブレットなどいじっていない。それなのに、勝手な行動をしている由を、先生は注意しないのだろうか。そのことに疑問を持ちつつ、もう少し画面をしっかり見てみると、並べられた文字の中には由の写真も混じっている。
「……なに見てんだよ、それ」
先生が教科書を読み上げている声に紛れて、小さい声で聞いてみる。
「ああ、俺へのコメントにGOOD返してるんだよ。毎日の日課」
せっかく小声で聞いたっていうのに、由が普通の声量で答えを返すから、一気に教室中の視線が集まった。
「あ、続けてください先生。僕はいつものGOODチェックしてるだけなので。気にせずにお願いします」
姿勢だけはずっといいままで、由はにっこりと微笑んで数学の先生に授業の再開を促す。
「GOODチェック……」
また、聞き慣れない言葉に俺は由を見る。すると、今度は無言のままタブレットの画面を指差した。
スクロールしながら、投稿の一つ一つにGOODマークを押している。たぶん、由がこの投稿を見たという証なんだと思う。
ってことは、これって由のアカウント? SNSでいう「いいね」みたいなことをしているってことなのか?
授業が終わると、由は「貸して」と俺のタブレットを手に取り、画面の中にあるまだ俺が触れたことのない『G』と書かれたアプリを起動した。
「これ、池杉学園GOODグループのアプリなんだ。蒼輝くんも登録したほうがいい。この学園の生徒なら誰でもやりとりできる素晴らしいSNSだよ。毎日のチェックは僕の生きがいだし、僕が存在する意味の確認にもなっている」
完全GOOD七条由の顔をして言うから、やけに説得力がありつつも、何を言っているのか分からないという冷静な俺もいる。
それに、俺はSNSなんてやったことがない。
そもそも、スマホだってこの春からようやく持ち始めたんだ。俺は別に要らなかったんだけど、父さんが何かあった時にすぐ連絡出来るようにって、入学祝いに買ってくれた。
基本的にスマホは学校に持ってこないし、家に置いているから、使うのは勉強で分からない時に検索するだけだった。この前みたいに、嫌なやつの心無い言葉もSNSには無法地帯のように流れている。そんなもの見たくないし、だからやらないって決めているのももちろんある。
毎日嫌なことを直接言われ続けていたのに、画面を通してまで攻撃されたくなんかない。かりにもしされていたとしても、俺の目に入らなければ、それはないのと同じだから関係ない。そうやって、目を背けてきた。
「俺は……そういうのやりたくない」
黒七条由を呼び起こそうが、知ったことじゃない。俺はもう自分に素直に生きるって決めたんだ。何を思われようと。
「え、でも、もうすでにあるぞ」
「……は!?」
にこっと笑って、由が俺のタブレットをこちらに向ける。
画面には、確かに工藤蒼輝と書かれていて、入学式の時に新入生代表としてマイクに向かう横顔の写真がアイコンになっている。
「いや、これ、盗撮でしょ?」
「え、写真掲載NGだったら、入学時に許可取りの用紙にNGを選んで判子押して提出しなきゃいけなかったんだよ? 蒼輝くんはどっち選んだの?」
教室では黒七条由は本当に姿を現さない。徹底したしゃべり方もとても丁寧だから、それに驚きつつ、入学時に提出した資料のことを思い出す。
確かに、学校行事などを家庭に連絡する際のお便りやメールに学校の様子を写した写真が載ることがあるけれど、そのことについて理解を求める文書があった気はする。
別にそれはいいだろ。大勢の中に映り込むくらいの写真に俺がいたって、誰も興味なんか持たないし。まして、芸能人でもあるまいしNGにする意味もわからない。だから了承したのを思い出す。
確かに新入生代表で俺一人だけが目立つ場面はあったから、写真を撮られるのはいいとして。
「アカウントを作って良いなんて文書はなかったよな?」
「えー、僕わかんないなぁ。詳しいことは森谷先生に聞かないと」
由の顔が明らかに「めんどくせぇ。今すぐこの会話を終わらせろ。さもなくば……」っと、今にも黒七条由が飛び出してきそうになっているから、俺は次の言葉をグッと飲み込んだ。
「とりあえず、放課後先生に聞いてみる」
「うん、そうだね。ぜひ、そうして」
アカウントはあるものの、まだなにも発信していないから、由みたいにコメントが来てる様子はない。なにもしなきゃ面倒にはならなそうだから、俺はこのまま放置を望むことを伝えよう。
香坂さんの言った通りに、隣の席の由は先生の話を聞いているのかいないのか。数分おきに確認してみると、机の上に置かれたタブレットを操作しては、難しい顔をしたりニヤニヤしたりしている。
いや、これ、授業まったく聞いてないな。
呆れつつ、そっと画面を覗き見る。すると、そこにはSNSの画面が表示されていた。
今は数学の授業で、タブレットは開きつつも基本的にはノートと教科書を使って黒板に書かれた問題を解いているところだ。誰もタブレットなどいじっていない。それなのに、勝手な行動をしている由を、先生は注意しないのだろうか。そのことに疑問を持ちつつ、もう少し画面をしっかり見てみると、並べられた文字の中には由の写真も混じっている。
「……なに見てんだよ、それ」
先生が教科書を読み上げている声に紛れて、小さい声で聞いてみる。
「ああ、俺へのコメントにGOOD返してるんだよ。毎日の日課」
せっかく小声で聞いたっていうのに、由が普通の声量で答えを返すから、一気に教室中の視線が集まった。
「あ、続けてください先生。僕はいつものGOODチェックしてるだけなので。気にせずにお願いします」
姿勢だけはずっといいままで、由はにっこりと微笑んで数学の先生に授業の再開を促す。
「GOODチェック……」
また、聞き慣れない言葉に俺は由を見る。すると、今度は無言のままタブレットの画面を指差した。
スクロールしながら、投稿の一つ一つにGOODマークを押している。たぶん、由がこの投稿を見たという証なんだと思う。
ってことは、これって由のアカウント? SNSでいう「いいね」みたいなことをしているってことなのか?
授業が終わると、由は「貸して」と俺のタブレットを手に取り、画面の中にあるまだ俺が触れたことのない『G』と書かれたアプリを起動した。
「これ、池杉学園GOODグループのアプリなんだ。蒼輝くんも登録したほうがいい。この学園の生徒なら誰でもやりとりできる素晴らしいSNSだよ。毎日のチェックは僕の生きがいだし、僕が存在する意味の確認にもなっている」
完全GOOD七条由の顔をして言うから、やけに説得力がありつつも、何を言っているのか分からないという冷静な俺もいる。
それに、俺はSNSなんてやったことがない。
そもそも、スマホだってこの春からようやく持ち始めたんだ。俺は別に要らなかったんだけど、父さんが何かあった時にすぐ連絡出来るようにって、入学祝いに買ってくれた。
基本的にスマホは学校に持ってこないし、家に置いているから、使うのは勉強で分からない時に検索するだけだった。この前みたいに、嫌なやつの心無い言葉もSNSには無法地帯のように流れている。そんなもの見たくないし、だからやらないって決めているのももちろんある。
毎日嫌なことを直接言われ続けていたのに、画面を通してまで攻撃されたくなんかない。かりにもしされていたとしても、俺の目に入らなければ、それはないのと同じだから関係ない。そうやって、目を背けてきた。
「俺は……そういうのやりたくない」
黒七条由を呼び起こそうが、知ったことじゃない。俺はもう自分に素直に生きるって決めたんだ。何を思われようと。
「え、でも、もうすでにあるぞ」
「……は!?」
にこっと笑って、由が俺のタブレットをこちらに向ける。
画面には、確かに工藤蒼輝と書かれていて、入学式の時に新入生代表としてマイクに向かう横顔の写真がアイコンになっている。
「いや、これ、盗撮でしょ?」
「え、写真掲載NGだったら、入学時に許可取りの用紙にNGを選んで判子押して提出しなきゃいけなかったんだよ? 蒼輝くんはどっち選んだの?」
教室では黒七条由は本当に姿を現さない。徹底したしゃべり方もとても丁寧だから、それに驚きつつ、入学時に提出した資料のことを思い出す。
確かに、学校行事などを家庭に連絡する際のお便りやメールに学校の様子を写した写真が載ることがあるけれど、そのことについて理解を求める文書があった気はする。
別にそれはいいだろ。大勢の中に映り込むくらいの写真に俺がいたって、誰も興味なんか持たないし。まして、芸能人でもあるまいしNGにする意味もわからない。だから了承したのを思い出す。
確かに新入生代表で俺一人だけが目立つ場面はあったから、写真を撮られるのはいいとして。
「アカウントを作って良いなんて文書はなかったよな?」
「えー、僕わかんないなぁ。詳しいことは森谷先生に聞かないと」
由の顔が明らかに「めんどくせぇ。今すぐこの会話を終わらせろ。さもなくば……」っと、今にも黒七条由が飛び出してきそうになっているから、俺は次の言葉をグッと飲み込んだ。
「とりあえず、放課後先生に聞いてみる」
「うん、そうだね。ぜひ、そうして」
アカウントはあるものの、まだなにも発信していないから、由みたいにコメントが来てる様子はない。なにもしなきゃ面倒にはならなそうだから、俺はこのまま放置を望むことを伝えよう。



