池杉学園GOODグループ

「そんなことは、ないんじゃないかな」

 いつもなら何も言わない。だって、言ったところで暴言が返って来て終わりだ。だから、ただ聞き役になって言葉は飲み込んできた。だけど、なんとなく、今はきっと由にとって返事が欲しい話なんじゃないかって思った。
 由は、言葉は悪いけど嫌な奴ではない。それを少しだけ、俺は理解してきていたから。

「この前うちに来た時に、お母さん迎えに来てくれただろ。その時、お礼にってお菓子置いて行ってくれたんだ。その中にね」

 由が帰った後、ばあちゃんが『頂いたからみんなで食べましょう』って、紙袋からお菓子の箱を取り出したら、一緒に一枚の手紙が入っていた。

【今日は本当にありがとうございます。お友達の家にお邪魔していると電話が来た時、由の嬉しそうな声を聞けて私まで嬉しくなりました。これからもぜひ、うちの由と仲良くしてください。よろしくお願いいたします。】

 丁寧な字でそう書かれていた。

「子供のためにこんなふうに手をかけてくれているのに、愛されてないわけないだろ」

 由のことを考えて、由のために、由のお母さんはやってくれたんだ。誰のためでもない。

「……そう、なん?」

 あっけに取られた顔をしているから、思わず笑ってしまう。

「そうだろ。由はちゃんと愛されてるよ」

 当たり前のことなのに。それがわからないなんてことがあるのか。自分がわがまますぎて見えていないだけなんだろうな。俺からしたら、贅沢な悩みだ。
 だって、俺の母さんは下の弟、妹ばかりに手をかけて、俺のことなんて「自分のことは自分でやりなさい」だったからな。まぁ、そのおかげでこうして一人でもなんとか踏ん張っていられるんだけど。

「蒼輝! お前良いやつやんなぁ!」

 ガバッといきなり抱きついてくるから、驚いてしまう。ふんわりとお日様のあたたかい香りがした。由はすぐに離れると真剣な表情をする。

「蒼輝、俺と友達になってくれ」

 晴れ渡る蒼い空。静かな中庭には鳥がさえずり、風が花の匂いを運びながら、木の葉を揺らした。太陽を背にほほえむ由の顔は、これまで見た中のどの時よりも爽やかで穏やかに見えた。
 だからかもしれない。
 あんなにも友達と言う言葉を嫌っていた俺が、由とだったら。なんて思い始めてしまっている。
 それに、これを断ったら、俺はその場からずっと成長することなく、過去の嫌な体験を背負ったままなのかもしれないと、怖くもなった。
 だから、同じ怖い思いをするなら、俺は前に進みたい。足踏み状態で普通の生活なんて出来るはずがない。だったら、一歩前に踏み出してみたい。間違ったなら戻れば良い。進んでみないと、なにもかも分からないんだ。

「……うん、よろしく」

 うつむいていた顔を上げれば、太陽よりも輝いている由の笑顔があった。
 なんだか、無性に泣きたくなる。今まで出会ってきた人たちの中に、友達なんていなかった。だから、友達の作り方なんて俺は知らない。でも、由はきっとそれを知っている。だって今、俺のことを友達にしてくれたから。

 パンッパンパンパン……
 いきなり、手を叩く大きな音が響きだして肩がびくりと跳ねた。

「うおぅー! 先生は感動したよ! 由くん、蒼輝くん!」

 木の影からゆっくり姿を現したのは、森谷先生。相変わらず影が薄いからか、そこにいたことに全然気がつかなかった。少し離れているけど、よく見たら目元をおさえて号泣しているっぽい。

「これでまたGOODグループの絆が固く結ばれたね。ブラボーだよ! ささ、もう授業が始まってしまうから教室に急ごう」

 拍手喝采しながら、後ろから進みなさいと背中を押すから、俺は由と一緒に前に進む。

「二人の友達記念に先生今から買い出しして、調理実習室でお祝いのケーキを作るからね。あ、もちろん材料費は自己負担するよ。楽しみにしていてね」

 教室の前まで来ると、そう言って森谷先生は戻って行ってしまった。

「俺も噂でしか知らんかったけど、マジで森谷先生ってヤバいんやな。まぁ、認定してもらえたっちゅーことは、また一歩真心先輩に近づけたってことやんな」

 二ヒヒと嬉しそうに笑う由に、俺もつられて笑った。