池杉学園GOODグループ

 見上げた空は穏やかに晴れていて、夕焼けのグラデーションが美しい。
 けれど、俺の気分は最悪だ。どうしてこんなことになったのか。
 悪くは思いたくないけれど、じいちゃんのよく分からない肩書きのせいじゃないかと思い始めている。しかし、じいちゃんのことを責めるわけにはいかないし、レジェンドなんてすごい称号の付いている祖父がいることは誇りに思わないといけないのかもしれない。

 悩みながら校庭を歩いていると、校門付近で女子数人がこちらを見て何かを話しているのが視界に入った。
 制服がうちの学園のものとは違うから、他校の生徒だろう。気にしないように少し距離をとって歩いていくと、すれ違いざまに聞こえてきた言葉に、俺の体が凍りつく。

「マジでソーキンじゃん。え、由くんと同じ学校とかありえなくない?」
「まさか会うと思わなかったー、見たくなかったんだけどぉ」

 知らないふりを決め込んでいたのに、トゲのある言葉が胸に刺さって心をえぐる。思わず、視線を彼女たちに向けてしまった。
 見慣れない制服姿だけど、顔を見れば思い出す。同じ小学校で、俺のことを「ソー菌」ってあだ名で呼んでいじめてきたやつだ。
 何かをしたわけじゃないのに、存在自体を否定してきた張本人。自分たちが楽しければそれでいいと思っているんだろうなって感じたけど、実際何を考えているかは理解できない。

「あたしたちの推しに近寄ったりしないでよね」
「ソー菌なんかが由くんのそばにいて良いわけないのに、信じらんない」

 離れてまでもこうやって攻撃してくるのはなんでだ? もう放っといてくれ。俺はもう過去に悩みたくないんだ。女子たちの強い口調に心が痛む。
 逃げ出そうとした瞬間、「きゃあ!」と悲鳴が上がった。

「えー、君たちなにしてるのー?」

 振り返ると、爽やかなオーラを身にまといながら歩いてくる七条由の姿。一斉に俺への関心が無くなって、女子の視線は七条由に一直線だ。

「わ、わわわ、どうしよぉ」
「え、まってぇ、不意打ち過ぎるぅ」
「めちゃくちゃかっこいいぃ」

 さっきまでの強気さはどこかへいったのか、いきなりとろけるような声でふにゃふにゃ体を揺らし始めるから、信じられない。
 態度の違いすぎる女子に呆れて、あとは七条由に任せようと俺はフェードアウトを考える。

「工藤蒼輝んこと悪く言って良いんは俺だけや。覚えとけよアホんだらが」
「…………え」

 目の前に、黒七条由が降臨している。
 真っ黒い影をまとい、女子らを睨みつける。まるで鬼だ。うるわしの鬼。横から見ていても顔だけは良いから、自分にその怒りが向いていないなら、見ている分には芸術鑑賞だ。
 向けられている本人はヤバいだろうな。
 いや、待て。七条由がヤバいだろ。

「何してんだよ!」

 あわてて、俺は七条由の腕を掴むと引っ張る。意外にもよろけてそのまま着いてきてくれるから、力が要らないまま女子たちから遠ざかることができた。
 夢中で引っ張ってきてしまって、気が付けばもうすぐ家の前だ。

「あ、わ、悪りぃ」

 掴んでいた腕から手を離し、どんな鬼の形相をしているかと怯えて振り返ると、七条由は普通に頬を膨らませてむくれているだけ。

「なんなん、さっきの」
「え?」
「見るからに人相の悪い女子たちやったやん。知り合いなん?」

 腕を組んで仁王立ちの七条由に見下ろされると、途端に気持ちが萎縮してしまう。
 知り合いだとしても、俺にはもう関係のない知り合いだ。話したくもない。
 無言でいると、七条由が口を開く。

「余計なことやったらごめんだわ。でもな、俺はあいつらが工藤蒼輝のことイジメてるようにしか見えへんかったんよ。だから、あんな行動に出たんやけど、間違っとったらすまん」

 まさか、あの七条由が俺に頭を下げている。目の前で起きていることを理解するまで時間がかかってしまう。
 夕焼けが、七条由のお辞儀を照らす。何をしていてもキラキラとして絵になるのは、七条由という人間がそうさせているのだろうか。

「おや、そうちゃん? おかえり。どうしたんだい?」

 買い物袋を手にしたばあちゃんが、向こうから歩いてきた。