池杉学園GOODグループ

「では、改めまして。工藤蒼輝くん、我らが生徒会へようこそ」

 生徒会長の真心先輩がにこやかに歓迎の言葉を述べてくれるが、俺は生徒会に入った覚えはない。が、ことを荒立てたくはないので何も言わない。

「一年生のうちは特に役職はないのだけれど、君たちはうちの学園の宣伝係りに任命されている。詳しくは、森谷先生よりお話があります」

 真心先輩が「どうぞ」と真ん中の立ち位置からズレると、どこにいたのか、森谷先生が影武者のようにスッと現れた。
 みんな驚きもしていないから、俺だけがビクついた事は平然とした顔をしてやり過ごす。

「えー、まずは、GOODグループの活動についてですが、先生あまり説明がうまく出来ないので資料にまとめてきました。なので、とりあえず読んでください」

 説明下手な先生……不安しかないな。
 テキパキと動いて、森谷先生は手にしていた教科書並みに厚みのある資料をそれぞれに手渡してくる。

「センセー、言ってくれれば俺がタブレットで簡単な資料作ったのに。またこれ一人でやったんすか? すげぇな」

 善先輩が呆れるようにため息をついている。
 俺の手元にも資料が回ってくると、思っていた紙の束をホッチキスで止めただけの簡易的な資料とは全然違う。なにこの重み。
 表紙は保健室の廊下で見たポスターの別バージョンがキラキラに加工されていて、中をパラパラとめくってみれば、先輩たちのオンショット満載。ところによりオフショットもあり。背表紙までこだわる完璧な仕上がりだ。しかも、よく見ると定価が書かれている。
 え、売ってるの?
 もはやこれ、写真集では!?

「これは私の愛の結晶……んんっ、いえ、私の愛すべき生徒会メンバーの勇姿を写真に収めて、日頃の活動報告として提出する資料になります。これを見れば、なにをすべきかは自ずと見えてきます。分からないことがあれば、都度聞いてくれれば、問題ありません。むしろ、積極的に私に話しかけにきてください」

 頬を高揚させてウェルカムと両手を広げる森谷先生に、やっぱり不安しか感じない。
 え、大丈夫? この先生。

「森谷先生ヤバいでしょ?」

 隣でくすくすと笑う余裕のある香坂さんに、俺は何度もうなずく。ヤバすぎるだろ。

「生徒会愛が深いのよ」

 愛……。

「これって売ってるってこと?」

 定価表示を指差して、こっそり香坂さんに聞くと、当たり前のようにうなずく。

「そうだよ。これの売り上げで学校の不備な部分を補ったり生徒の要望を叶えるための資金にしたりしているのよ。何かとお金のいる時代だからね。学校運営費だけじゃ手が回らないんじゃない? 知らないけど」
「……じゃあ、これって俺らが広告塔になって学校運営費を稼げってこと?」
「飲み込みが早いね、工藤くん。さすがレジェンドの孫だ」

 森谷先生が鼻息を荒くして近づいてくる。そして、ずり落ちた細いフレームの丸メガネを直しながら、俺をじっと見つめる。

「……白馬様よりは、まぁまぁだけど、磨けば君も必ずやダイヤモンドになれる存在だ! 今は原石なだけで」
「……はぁ」

 なんかものすごく遠回しに嫌味を言われたような気がするのだが。

「この学園のトップは七条由だ。君の可能性も……無きにしてあらずではあるが、まぁまぁだ」

 あ、やっぱ嫌味は気のせいじゃないな。なにこの先生。

「よって、工藤くんには七条くんの学力向上のためのバディとしてこれからの学校生活のサポートをしてもらいたい」

 ああ、そういうことか。
 
「つまり簡単に言えば、森谷先生は七条由の推しで、池杉学園の次期生徒会長に任命させたいってことですね?」
「おお、そうだよ。全くその通り」
「だけど、七条由には重大な欠点がある」
 
 それは俺でもすぐに分かった、とてつもなく大きな欠点だ。それを補うための駒に、レジェンドの孫である俺が選ばれたってわけか。そう考えるとなんとなくここにいる意味がわかってくる。
 俺の言葉で、一気に場の空気が凍るのを感じた。
 もうこの際何を言われたっていいや。どうせこの人たちと関わらなきゃないなら、俺だって気を遣ってなんかいたくないし。
 嫌われる覚悟を決めて痛む胃をおさえながら、俺は七条由に視線を送った。

「あまりにも自分勝手でわがまま。変な関西弁で相手をののしってくる性格の悪さですよね? 世の中顔さえ良ければ良いってもんじゃないですから」

 頭に血が昇っていく。指先が冷えて震える。
 言ってやった!!
 俺ばかりが言われたい放題なんてそんなのひどすぎる。俺は出来れば普通の中学校生活を送りたいんだ。だから、これで生徒会から追放されたって別に問題ない。むしろ、その方が願ったり叶ったりだ。