池杉学園GOODグループ


 ふわりと頬に当たる冷たい風に目が覚める。
 ぼうっとしたまま、天井を眺めていた。教室で具合が悪くなったのは覚えているけど、その後のことが思い出せない。

「あ、気が付いた!?」

 横から顔を覗き込んでくるのは、さっき話しかけてくれたクラスメイトの子。

「大丈夫?」
「……あ、ああ。ごめん、急に気分が悪くなって」
「あたしが突然馴れ馴れしく話しかけたりしたからだよね? ごめんね」

 しゅんっと、落ち込むように眉を下げて俯いてしまうから、あわてて首を振った。

「いや、違うよ。そんなわけない」
「あたし、いっつもなんだ。相手のこと何も考えないで自分の思ったことずけずけ言っちゃうから。直さなきゃって思ってたのに、全然だ。ごめんなさい」

 申し訳なさそうに謝るから、俺はゆっくり体を起こしてもう一度首を振る。

「いや、嬉しかったんだ。本当は」
「……え?」
「ああやって言ってもらえて、嬉しかった。だけど、俺はそれを素直には受け取れなくて」

 嘘なんじゃないかって、本当は心の中では笑っているんじゃないかって、そんなひどいことを思ってしまっていた。自分のことを良く言ってくれる人なんて、この世にいるわけがないとまで、思ってしまうから。だから、嬉しいけど、同時に怖くもあった。

「本当? 嬉しかったの?」
「……え、ああ、うん」

 また、ぱっと彼女の表情が明るくなるから、すぐに視線をそらした。

「嬉しかったら、笑うといいんだよ」
「え?」
「工藤くん、すごく不安そうな顔をしていたから、あたし嫌なこと言っちゃったんだなって思ったの。だから、もし嬉しいって思ったなら、笑って欲しいな」

 にこっと笑う彼女の顔が、女神様にでも微笑まれたようにキラキラしている。なんだか胸の奥がドキドキして、あたたかくなった。
 不安が薄れて、今なら上手く笑えるような気がした瞬間、ガラッとドアの開く音と同時に、足音が近づいてきた。そして、勢いよくカーテンが開く。

「工藤蒼輝! はよ、起きんかい!」

 現れたのは黒七条由だ。
 せっかくのいい雰囲気が一気に台無しで、俺は眉をしかめた。

「何しとんの、二人」

 向き合っていた俺たちを見て、七条由が目を細める。

「なにって、話してたのよ。ってゆうか、由くん関西弁出ちゃってるよ!? 気をつけないと」
「え、ああ、こいつ一人かと思て」
「ここにいるのがあたしじゃなかったら、大変なことになるよ。気をつけないとダメじゃん」
「まぁ、友里(ゆうり)だったからええやん」
「あ! ほらまた」
「はい、はい」

 いきなり始まった二人のやりとり。
 教室では一切七条由には話しかけていなかった彼女が、なんだか誰よりも親しそうに話している気がする。
 この子、何者だ?

「あ、あたし、香坂(こうさか)友里です。えっと、由くんとは幼なじみなんだけど、いつもは他人のフリをしているから、あんまりそこは気にしないでね」

 困ったように笑う香坂さん。
 七条由の幼なじみ? まじか。

「由くんはね、みんなのアイドルだから幼なじみって立ち位置のあたしは立場が狭いし恨まれるしで、なかなか面倒くさいの。だから、由くんにもあたし達は他人ねって、由くんの人気が急上昇してきたあたりに断言してるの。なので、工藤くんもそこのところはよろしくお願いします」

 七条由に振り回されるのは大変だっただろうなと、同情してしまう。深々とお辞儀をする香坂さんを見て、同情しつつ、俺も深くうなずいた。

「あ、ああ。分かった」
「なんや、やけに素直やな」

 嫌味ったらしく七条由が言うけど、そこには俺はなにも返さない。返したらどんな暴言の嵐が来るか分からないし。もうパターンは読めている。

「そりゃあ、由くんとは頭の出来が違うもの。工藤くんと仲良くしなきゃダメだからね、ほんと」
「なんやそれ。意味わからんし」
「森谷先生にも言われているでしょう?」
「いや、何も聞いてへん」
「嘘」
「あー、もう。うざいんよ、友里は! とりあえず生徒会室行くで! ついてこんかい!」

 イラつくように声を荒げる七条由のことを、香坂さんがしーっと、なだめる。
 幼なじみなだけあってさっきから息が合うのかずっとしゃべっているのがすごい。
 俺はまだぼうっとする頭を起こすために深く深呼吸をした。