桜咲く、四月。池杉学園中等部の体育館壇上で、俺はマイクに向かっていた。
「暖かな春の訪れとともに、私たちは入学式を迎えることとなりました。温かく、そして時に厳しくご指導いただきますようお願いいたします。新入生代表、工藤蒼輝」
体育館いっぱいに割れんばかりの拍手が響いて、心臓が破裂しそうに痛い。校長先生から直々に新入生代表のあいさつをしてほしいとお願いされていた俺は、無事にその大役を終えた。一刻も早くこの場から逃げたい衝動を抑えつつ、俺は壇上を後にする。
「工藤くん、とても立派でしたよ。これから学園生活を大いに楽しんでくださいね」
ステージ袖で校長先生が声をかけてくれる。そして、手汗でびっしょりの俺の手に、何かを握らせた。そっと手のひらを開けば、紙切れがあった。丁寧な字で【そのまま生徒会室へ行ってください。】と書かれている。
「これは……?」
尋ねたところで、目の前にはもういない。すでに、ステージ上では校長先生の挨拶が始まっている。俺は首を傾げつつも、紙に書かれた通りに体育館裏の通路から校舎内に向かった。
暗幕を抜けると、太陽が眩しくて目を細めた。外はすっきりと晴れていて、静かな渡り廊下に鳥のさえずりが聞こえる。風にのって、ふんわりと花の香りもした。
生徒は入学式に全員参加中のはずだけど、俺だけ生徒会室に行く意味はなぜだろう? と、少し考えてしまう。
「あー、君。もしかして新入生代表くん?」
どこからともなく声が聞こえてきて、肩が飛び跳ねた。
「あはは、びっくりしすぎだってば。上、う、え、だ、よ」
誰もいないと思ったばかりなのに、急に話しかけられるから、驚くのは当たり前だ。しかも姿が見えないなんて尚更。
そう思いながら、言われた通りに見上げた。
「やっほー! 生徒会室はこちらでーす」
手を振って笑いかけてくるのは、生徒だ。たぶん校内を知っている雰囲気からして在校生。先輩かもしれない。
太陽の煌めきが眩しいんじゃなくて、この人自体がもつ明るさで輝いているような、そんなオーラが見える。
逆光に目が慣れてくると、姿がはっきり見えた。長めの襟足は陽に当たっていて金色に見える。花が咲いたように笑う顔は目鼻立ちが整っていて、まるで画面から飛び出してきたアイドルみたいにキレイだ。女の子みたいな高い声をしているけれど。
「……男、だよな?」
「え? うん。そうだよ。もち、ろんっ」
きゃぴっとでも効果音が付きそうな身振り手振りで答えが返ってくるから、思わず口元を手で押さえてしまった。
外階段の三階だぞ?
身を乗り出してはいるけど、俺の呟きが聞こえるはずがない。なのに、しっかり聞こえていたことにまずいと思った。何か嫌味を言われるんじゃないかと警戒する。
「そこから登っておいでー。もうみんな集まってるよー」
俺の言葉には何も言わずに、鼻歌まじりに楽しそうに校舎内に入っていったから、怒られることもなくてホッと胸を撫で下ろす。
って言うか、みんなって、どういうことだ?
とりあえず、目の前の階段を進むしかない。
何が待ち受けるのか、先が見えないまま、俺は外階段を三階まで登り校舎内に入った。
「暖かな春の訪れとともに、私たちは入学式を迎えることとなりました。温かく、そして時に厳しくご指導いただきますようお願いいたします。新入生代表、工藤蒼輝」
体育館いっぱいに割れんばかりの拍手が響いて、心臓が破裂しそうに痛い。校長先生から直々に新入生代表のあいさつをしてほしいとお願いされていた俺は、無事にその大役を終えた。一刻も早くこの場から逃げたい衝動を抑えつつ、俺は壇上を後にする。
「工藤くん、とても立派でしたよ。これから学園生活を大いに楽しんでくださいね」
ステージ袖で校長先生が声をかけてくれる。そして、手汗でびっしょりの俺の手に、何かを握らせた。そっと手のひらを開けば、紙切れがあった。丁寧な字で【そのまま生徒会室へ行ってください。】と書かれている。
「これは……?」
尋ねたところで、目の前にはもういない。すでに、ステージ上では校長先生の挨拶が始まっている。俺は首を傾げつつも、紙に書かれた通りに体育館裏の通路から校舎内に向かった。
暗幕を抜けると、太陽が眩しくて目を細めた。外はすっきりと晴れていて、静かな渡り廊下に鳥のさえずりが聞こえる。風にのって、ふんわりと花の香りもした。
生徒は入学式に全員参加中のはずだけど、俺だけ生徒会室に行く意味はなぜだろう? と、少し考えてしまう。
「あー、君。もしかして新入生代表くん?」
どこからともなく声が聞こえてきて、肩が飛び跳ねた。
「あはは、びっくりしすぎだってば。上、う、え、だ、よ」
誰もいないと思ったばかりなのに、急に話しかけられるから、驚くのは当たり前だ。しかも姿が見えないなんて尚更。
そう思いながら、言われた通りに見上げた。
「やっほー! 生徒会室はこちらでーす」
手を振って笑いかけてくるのは、生徒だ。たぶん校内を知っている雰囲気からして在校生。先輩かもしれない。
太陽の煌めきが眩しいんじゃなくて、この人自体がもつ明るさで輝いているような、そんなオーラが見える。
逆光に目が慣れてくると、姿がはっきり見えた。長めの襟足は陽に当たっていて金色に見える。花が咲いたように笑う顔は目鼻立ちが整っていて、まるで画面から飛び出してきたアイドルみたいにキレイだ。女の子みたいな高い声をしているけれど。
「……男、だよな?」
「え? うん。そうだよ。もち、ろんっ」
きゃぴっとでも効果音が付きそうな身振り手振りで答えが返ってくるから、思わず口元を手で押さえてしまった。
外階段の三階だぞ?
身を乗り出してはいるけど、俺の呟きが聞こえるはずがない。なのに、しっかり聞こえていたことにまずいと思った。何か嫌味を言われるんじゃないかと警戒する。
「そこから登っておいでー。もうみんな集まってるよー」
俺の言葉には何も言わずに、鼻歌まじりに楽しそうに校舎内に入っていったから、怒られることもなくてホッと胸を撫で下ろす。
って言うか、みんなって、どういうことだ?
とりあえず、目の前の階段を進むしかない。
何が待ち受けるのか、先が見えないまま、俺は外階段を三階まで登り校舎内に入った。



