私の剣幕と言葉に、ヘンリクは目を瞠って固まっていた。
『ああ! もうらちが明かない!』
私は、共に出迎えた執事長に声を掛けた。
「マードック、乗って帰った馬車はまだ馬車寄せにいるかしら? 帰ったばかりで申し訳ないのだけど、すぐに別邸に行ってもらうように頼んで欲しいの。無理なら閣下の馬を用意するように頼んでちょうだい」
私は、執事たちに指示を出しながら素早くその場を後にした執事長の背中を呆然と見ているヘンリクの背中を叩いた。
「ほら、ぐずぐずしないで、早く!」
その言葉に、弾かれたように玄関へ向かったヘンリクを見送っていると、後ろからクロエに声を掛けられた。
「よろしかったのですか?」
私は振り返ってクロエに笑顔を向けた。
「人生って、本当に物語よりドラマチックよね。障害を乗り越えて愛を確かめ合う恋人たち。物語なら、私は二人の真実の愛を見せつけられて涙ながらに身を引く立場ってとこかしら?」
心配そうな顔で私を見つめるクロエの腕に手を絡め、腕を組んで部屋へ移動しながら話を続けた。
「いつも心配してくれてありがとう。でもね、この物語は私が主人公ではないわ。さっき馬車へ向かった時の侯爵閣下の顔、クロエも見たでしょう? あの二人の愛は本物だと思わない? それにね、こういう物語って、傷心の当て馬役の女性にはこの先素敵な恋が用意されているものなのよ」
クロエはそう言ってウインクした私の顔を見て、ほっとした表情を浮かべている。
「でも、傷心だからこそのご褒美でしょう? むしろ大歓迎で送り出した私に、素敵な恋って用意されているかしら? それが問題だわ」
真剣にそう呟く私の言葉に、くすくす笑いながらクロエは答えた。
「奥様なら、寄って来る男性は星の数ほどいると思いますよ。より取り見取りでは?」
「そうかしら? 何せ元【野暮令嬢】よ? そうだわ! いっそあの頃の姿に戻して、それでも寄り添ってくれた男性との恋物語ってどうかしら?」
「却下です!」
即答したクロエと顔を見合わせ、くすくす笑いながら部屋に戻った。
寝支度をして貰いながら、私は取り留めなくこれからの事を考えていた。
明日の話し合いでは、国王の廃位とアレックスの悪事の数々をどう公表するか、合わせて彼らの処遇についても決定するなっている。しかし、それらが公表されたとしても、長年貶められて来たウェーバー公爵家の名誉は完全に回復することは難しいだろう。これからは私たち家族の努力次第だ。そして、ヘンリクとハンナの事。二人の間には大きな問題が立ちはだかっている。それを二人は乗り越えられるだろうか……
寝台に体を沈めると、怒涛の一日の疲れがどっと襲ってきた。
明日は朝が早い。とにかく今は少しでも頭と体を休めよう。
『ああ! もうらちが明かない!』
私は、共に出迎えた執事長に声を掛けた。
「マードック、乗って帰った馬車はまだ馬車寄せにいるかしら? 帰ったばかりで申し訳ないのだけど、すぐに別邸に行ってもらうように頼んで欲しいの。無理なら閣下の馬を用意するように頼んでちょうだい」
私は、執事たちに指示を出しながら素早くその場を後にした執事長の背中を呆然と見ているヘンリクの背中を叩いた。
「ほら、ぐずぐずしないで、早く!」
その言葉に、弾かれたように玄関へ向かったヘンリクを見送っていると、後ろからクロエに声を掛けられた。
「よろしかったのですか?」
私は振り返ってクロエに笑顔を向けた。
「人生って、本当に物語よりドラマチックよね。障害を乗り越えて愛を確かめ合う恋人たち。物語なら、私は二人の真実の愛を見せつけられて涙ながらに身を引く立場ってとこかしら?」
心配そうな顔で私を見つめるクロエの腕に手を絡め、腕を組んで部屋へ移動しながら話を続けた。
「いつも心配してくれてありがとう。でもね、この物語は私が主人公ではないわ。さっき馬車へ向かった時の侯爵閣下の顔、クロエも見たでしょう? あの二人の愛は本物だと思わない? それにね、こういう物語って、傷心の当て馬役の女性にはこの先素敵な恋が用意されているものなのよ」
クロエはそう言ってウインクした私の顔を見て、ほっとした表情を浮かべている。
「でも、傷心だからこそのご褒美でしょう? むしろ大歓迎で送り出した私に、素敵な恋って用意されているかしら? それが問題だわ」
真剣にそう呟く私の言葉に、くすくす笑いながらクロエは答えた。
「奥様なら、寄って来る男性は星の数ほどいると思いますよ。より取り見取りでは?」
「そうかしら? 何せ元【野暮令嬢】よ? そうだわ! いっそあの頃の姿に戻して、それでも寄り添ってくれた男性との恋物語ってどうかしら?」
「却下です!」
即答したクロエと顔を見合わせ、くすくす笑いながら部屋に戻った。
寝支度をして貰いながら、私は取り留めなくこれからの事を考えていた。
明日の話し合いでは、国王の廃位とアレックスの悪事の数々をどう公表するか、合わせて彼らの処遇についても決定するなっている。しかし、それらが公表されたとしても、長年貶められて来たウェーバー公爵家の名誉は完全に回復することは難しいだろう。これからは私たち家族の努力次第だ。そして、ヘンリクとハンナの事。二人の間には大きな問題が立ちはだかっている。それを二人は乗り越えられるだろうか……
寝台に体を沈めると、怒涛の一日の疲れがどっと襲ってきた。
明日は朝が早い。とにかく今は少しでも頭と体を休めよう。



