昼でもない。
夜でもない。

その間に立つ時間がある。



大学の講義が終わり、
スマホを見る。

仕事のメッセージを素通りして、目をやる。
未読はない。
それで、ほっとする自分がいる。

志乃から連絡がないことに安心するなんて、
少し前の俺なら考えられなかった。

追わないと決めた。

あの夜、
「恋はしない」と言った声は揺れていた。

嘘ではない。
でも、本心だけでもない。

だから、奪わない。



店に向かう途中、
夕焼けが街を薄く染めている。

Reyになる前の時間。

誰でもない、
ただの麗。

ホストでもない。
大学生でもない。
息子でもない。

肩書きが落ちる。

残るのは、
好きだと思った自分。

実家に寄る。
減ってしまった時間を、母は何も言わない。
それでも「航太と遊んでやって」と言う。
断れない。

店に入ると、
いつも通り花の匂いがする。

「いらっしゃい」

志乃は笑う。
変わらない。

だから俺も、変わらない。

重い段ボールを運び、
水を替え、
冗談を一つだけ言う。

触れない。

あえて、触れない。

あの夜から、
一度も。



閉店後。

今日は自然に隣を歩く。

送るとも言わない。
断られもしない。

ただ、並ぶ。
夜と昼の間みたいな距離。

「寒くない?」

それだけ聞く。
志乃は小さく首を振る。
沈黙が、重くない。

好きだと知っているから。



店の前で立ち止まる。
前なら、何かを期待した。
今は違う。

好きだと分かったから、
急がない。

「また明日」

志乃が言う。

「うん」

それだけで、十分だと思える。



志乃が言う。

「もし、私があなたを好きだったとしても……
 それでも――」

去り際最後の方は聞き取ることができなかった。

好きすぎて、風の音がそう聞こえたのかも。



帰り道。

ネオンが遠くで光る。

夜の顔を呼ばれても、
今日は行かない。

境目にいる。
どちらにも寄らない。
誰かを埋めるためじゃない。

志乃を選びたいと思った。

選ばれなくてもいい。
それでも、好きだと分かっている。
だから、選び続ける。
それだけで、今は立てる。